取引先中国企業が米国法の制裁対象になった場合の留意点、弁護士に聞く

(中国、米国)

中国北アジア課

2022年07月21日

近年、米国政府は経済安全保障法制を断続的に公表(注1)しており、複数の中国企業が米国の制裁措置の対象に追加されている。一方、中国政府は、米国など諸外国の制裁措置への対抗措置(注2)を可能とすべく、法整備を進めてきた。

ジェトロは715日、日本企業の取引先の中国企業が米国のエンティティー・リスト(EL)などに掲載され、制裁対象となった場合の留意点や取り得る対応策について、西村あさひ法律事務所の野村高志弁護士に聞いた。主な内容は以下のとおり。

(問)日本企業の取引先の中国企業が米国のELに掲載された場合、日本企業の当該中国企業とのビジネスに制限が及ぶのはどのようなケースか。

(答)米国輸出管理規則(EAR)では、取引品目がEAR適用対象品目として再輸出規制の対象となる場合、米国外でのEL掲載者との取引やEL掲載者を最終需要者とした取引なども規制対象としている。しかし、取引先の中国企業が米国のELに掲載された場合でも、全ての取引が禁止されるわけではない。例えば、当該中国企業からの購入は禁じられていない。また、取引品目がEAR適用対象品目でない場合は、日本などから当該中国企業への輸出・販売も原則として問題はない。まずは自社の取引がEARの規制対象に当たり得るか、特に再輸出規制がかかるかを個別に確認することが肝要だ。

(問)日本企業が米国法に従い、ELに追加された中国企業との取引を停止する場合、中国法との関係での留意点は。

(答)中国法との関係では、当該日本企業は「反外国制裁法」12条や「外国の法律および措置の不当な域外適用を阻止する規則」9条などに基づいて、取引中止行為などの差し止めや、損害賠償請求を申し立てられるリスクがある。

(問)日本企業が取り得る対応策は。

(答)中国企業との取引契約で、当該中国企業が米国などから制裁などを受けた場合に、日本企業が有利なかたち(例えば、賠償義務を負わないかたち)で契約を解除する条項を設けるなどの対応が考えられる。

ただし、このような契約条項はそもそも中国法における強行規定違反(注3)または公序良俗違反を理由に、無効と判断される可能性がある。また、当該条項に基づいて契約解除した場合、外国の差別的規制措置への協力や外国制裁法規などの順守を理由に、損害賠償請求などを受けるリスクもある。

(問)契約書でほかにあらかじめ工夫できる点はあるか。

(答)損害賠償の上限の設定や、請求できる損害を通常損害の範囲とするなど、外国による制裁と直接関係のない条項を盛り込むことも考えられる。ただし、このような条項の有効性に関する実例は少ないため、契約書の記載ぶりについて、実務事例の蓄積を注視する必要がある。

なお、ジェトロは712日に調査レポート「中国の安全保障貿易管理に関する制度情報 専門家による政策解説(2022年6月)」を公開。同レポートの中で「取引先の中国企業が米国による制裁対象となった場合の留意点の整理PDFファイル(418KB)」と題した解説記事を西村あさひ法律事務所の協力を得て掲載している。

(注1)米国の安全保障管理に関する法制度の詳細については、ジェトロのウェブサイト「特集:新たな局面を迎える安全保障貿易管理」から「専門家による政策解説【米国】」を参照。

(注2)中国の安全保障管理に関する法制度の詳細については、(注1)記載の特集ページから「専門家による政策解説【中国】」を参照。

(注3)中国法上、強行規定は、私的自治の原則の例外として契約の効力に影響を及ぼす「効力的強行規定」と、行政上の管理および処罰のための「管理的強行規定」とに分類される。「反外国制裁法」および「阻止規則」で認められている損害賠償請求を禁止等する契約条項については、このうち「効力的強行規定」に違反していると認定され、当該契約条項が無効とされる可能性がある。

(小林伶)

(中国、米国)

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