米上院、中絶権利保護法案の動議を否決、中間選挙の重要争点に

(米国)

ニューヨーク発

2022年05月13日

米国議会上院は5月11日、人工妊娠中絶を合法とする「女性健康保護法案(S.4132)外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます」のクローチャー(討論終結)動議を49対51の反対多数で否決した(注)。共和党議員50人全員に加えて、民主党中道派のジョー・マンチン議員(ウェストバージニア州)が反対に回った。

民主党が多数派の下院では、2021年9月に同様の法案(H.R.3755)外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますが賛成多数で可決されていたが、上院では2022年2月にクローチャー動議が反対多数で否決されている。今回の法案も、共和党の反対により廃案になることがほぼ確実視されていた。この状況下で民主党が法案採決に踏み切った背景には、保守派判事が多数を占める最高裁判所が近く、人工中絶を規制する州法を違憲とした1973年のロー対ウェイド判決を破棄すると報道されたことがある(政治紙「ポリティコ」5月3日)。最高裁は5月3日、同情報は本物と認めつつ、最終的な判断ではないと釈明するとともに、情報漏えい元の捜査を最高裁警察に指示したとのプレスリリース外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますを発表した。最高裁判事の構成は現在、保守派6人、リベラル派3人となる(2022年4月8日記事参照)。

ジョー・バイデン大統領はこの事態を受けて5月3日、「最高裁がロー対ウェイド判決を破棄するなら、中絶権の保障は、国民に選ばれた全米のあらゆる層の公職者にかかっている。また、有権者が(議会中間選挙が予定される)11月に、中絶賛成派に投票することにかかっている。連邦レベルでは、ロー対ウェイド判決を法制化するためにより多くの中絶賛成派議員が上下院で必要だ」との声明外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますを公表した。こうした流れを受けて、中絶問題が11月の議会中間選挙の大きな争点になりつつある。上院民主党トップのチャック・シューマー院内総務(ニューヨーク州)は採決後、「今日の投票は単なる一歩にすぎない。共和党による恥ずべき後退を許してはならない。女性の権利のために戦い続ける」との声明を出した。

共和党が知事・州議会多数派を押さえる州の間では既に、中絶を禁止する州法を成立させている州がある。ロー対ウェイド判決が破棄され次第、中絶を禁止し得る州は13州あるとされる(「ニューヨーク・タイムズ」紙電子版5月3日)。

こうした中、アマゾンやテスラなど大手企業は、女性従業員が中絶を禁止していない州で治療を受けるための渡航費などを補助する方針を打ち出している(ロイター5月12日)。中絶問題は今後、企業も巻き込んだ政治課題になりそうだ。

(注)本採決に移る前に、フィリバスター(議事妨害)を抑え込むためのクローチャー決議の採決となる。同決議の可決には60票の賛成票が必要。

(磯部真一) 

(米国)

ビジネス短信 5279fd8c547efe28