欧州議会、欧州委の2035年までの全新車ゼロエミッション化案を支持

(EU)

ブリュッセル発

2022年06月10日

欧州議会は6月8日、欧州委員会が2021年7月に提案した、乗用車および小型商用車(バン)の二酸化炭素(CO2)排出基準に関する規則の改正案(2021年7月16日記事参照、注)について、欧州議会としての修正案となる「立場」を採択した(プレスリリース外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)。今後、欧州議会はその立場に基づき、EU理事会(閣僚理事会)、欧州委との非公式交渉「トリローグ(3者対話)」に臨む。同改正案については、「新車からのCO2排出量を2035年までに100%削減(対2021年比)」との目標が提示され、これは内燃機関搭載車の生産を実質禁止し、EUが車両の電動化を強力に推進するものとして注目を集めていた。採択された「立場」では、100%削減という欧州委案を支持。採決後、修正案を担当する報告者(ラポーター)を務めたヤン・フイテマ議員[オランダ選出、欧州刷新(Renew)グループ]は、2050年までの気候中立達成には野心的な目標設定が重要だとし、自動車業界のイノベーションや投資を刺激できると述べた。

同議員は、電気自動車(EV)の価格の低下にもつながると述べたが、採決結果をトップニュースで伝えた同日のフランス公共放送は、車を日常的な移動手段とする消費者の価格や充電への不安を示す声を紹介。また、自動車業界の専門家はEVの価格が下がらなければ、消費者が新車購入をためらい、より安価な中古の内燃機関搭載車市場へ流れ、CO2排出削減目標を達成できない可能性があると指摘した。

業界は充電インフラ不足、雇用不安や国際競争力低下をあらためて懸念

欧州自動車工業会(ACEA)は6月9日、採決結果を受け止めつつも、100%削減という目標の達成には充電インフラの大規模整備が必要だとくぎを刺した(プレスリリース外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)。また、自動車業界が世界的なサプライチェーンの混乱など不安定、不確実な状況にさらされている中、長期的な目標を定めることは現段階では時期尚早で、2030年以降の目標については、充電インフラの整備やバッテリー生産などに関する中間評価を行い、目標を策定すべきだとした。

欧州自動車部品工業会(CLEPA)は6月8日、気候中立実現に貢献し、既存のインフラを活用できるハイブリッド技術や持続可能な再生可能燃料が排除された、と失望を表明した(プレスリリース外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)。目標達成状況の中間評価についてより明確な要件を定めることや、欧州委に対して車両のライフサイクル全体の排出量を測定する方法論の策定を求めたことは評価した。しかし、電動化一択はモビリティ部門の移行を「不必要に困難なものにし」、一部の中小企業や特殊な部品を扱う企業は対応不可能だとして、雇用や経済への影響を強く懸念した。また、EUのみが内燃機関技術を禁止する地域となれば、業界の開発力や国際競争力が低下すると危惧した。さらに、欧州が現状ではリチウムやニッケルなど重要な原材料を域外からの供給に大きく依存していることを指摘し、多様な技術を活用することは特定のエネルギー源や原材料の供給地域への依存度を低下させ、EUが掲げる戦略的自立性にとっても重要だと主張した。

(注)ジェトロ調査レポート「『欧州グリーン・ディール』の最新動向(全4回報告)」(2021年12月)も参照。

(滝澤祥子)

(EU)

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