自動車メーカー8社、EVバッテリー火災への対応で米政府独立機関勧告を受け入れ

(米国)

ニューヨーク発

2022年06月09日

米国連邦政府独立機関の国家運輸安全委員会(NTSB)は6月1日、自動車メーカー8社がNTSBの勧告に従うかたちで、電気自動車(EV)用高電圧リチウムイオンバッテリーの火災に対する緊急ガイドの見直しを行うことに同意したと発表した。今回勧告を受け入れたのは、ホンダ、現代、三菱自動車、ポルシェ、フォルクスワーゲン(VW)、ボルボのほか、大型商用車メーカーのプロテラと、バスメーカーのバンホールの8社。同勧告は2021年1月にEVメーカー22社に提出されており、現在ゼネラルモーターズ(GM)、フォード、トヨタ、テスラなどを含む12社でも受け入れの検討を進めている。米国でのEVバッテリー火災は2017年以降、複数回発生しており、最近ではGMがEV「ボルト」の火災発生後、約11万台のリコールを発表している(グリーンカーレポート2022年5月2日)。EV普及の過渡期といわれる中、安全性に対する消費者の信頼感を高めるため、一定の水準を担保した緊急時の対応策を定める意味は大きい。

今回の勧告は、NTSBが2020年11月に発表した、EV車両事故の事例分析である「安全レポート:EVリチウムイオンバッテリーの火災における緊急対応者への安全上のリスク」に基づいて行われた。同レポートでは、バッテリー火災により損傷したセル内で、制御されない状態で温度と圧力が上昇する「熱暴走(Thermal Runaway)」の発生や、いったん鎮火したと見えるバッテリーの内部に「取り残されたエネルギー(Stranded Energy)」が残存することで起こるバッテリーの再燃焼や感電事故といったEV特有の危険性を指摘。自動車メーカーではこれまで、緊急ガイドにおいて「取り残されたエネルギー」の処理方法や、緊急時の対応要員(消防士や、車両の牽引者)が受けるリスクに関する情報を扱っておらず、また連邦政府も、現行の安全基準にバッテリー搭載車の高速で損害の大きい衝突事故に関する対応を盛り込んでいないことから、NTSBはメーカーや安全基準を所管する米国運輸省道路交通安全局(NHTSA)に対し、国際標準化機構(ISO)やモビリティ専門機関のSAEインターナショナルが定める基準に基づいて、緊急ガイドや査定基準を作成するよう求めていた。さらに、全米防火協会や車両の牽引に携わる業界団体などに対しては、NTSBが提案する具体的な安全対策の実行などを促している。

(大原典子)

(米国)

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