ボランタリーカーボン市場のクレジット発行量、ブラジルは世界4位

(ブラジル)

サンパウロ発

2022年05月27日

ブラジルを代表するシンクタンクのジェトゥリオ・バルガス財団(FGV)は4月19日、「ブラジルのボランタリーカーボン市場(MERCADO DE CARBONO VOLUNTÁRIO NO BRASIL)」と題する報告書を発表PDFファイル(外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)した。それによると、ブラジルでは「農業・林業・その他土地利用(AFOLU)」(注1)に関するプロジェクトが直近2年間で増加傾向にあり、これによりブラジルでのカーボンクレジット発行量が今後さらに増える可能性があるという。

温室効果ガス(GHG)排出削減の政策ツールとして、国・地域レベルで、カーボンプライシング(注2)を導入する動きが広がる中、ブラジルでは民間事業者が主導するカーボンクレジットの発行量が増加している。

カーボンクレジット取引市場では、再生可能エネルギー導入や森林保護などによって実現したGHG排出削減量をクレジットとして売買する。国際機関や各国政府などが主導する制度と、NGOなど民間部門が主導する制度があり(2021年9月15日付地域・分析レポート参照)、ブラジルで増加しているのは、NGOなど民間事業者が発行するカーボンクレジットを取引する、いわゆるボランタリークレジット市場だ(注3)。

米国のカリフォルニア大学バークレー校公共政策大学院ゴールドマンスクールのデータベースによると、2021年12月時点で最も多くボランタリークレジットが発行された国は、米国〔3億9,539万6,035二酸化炭素(CO2)削減量トン相当〕、第2位はインド(2億3,317万6,821CO2削減量トン相当)、第3位は中国(1億4,456万4,270CO2削減量トン相当)、第4位がブラジル(9,278万4,499 CO2削減量トン相当)。

FGVは報告書の中で、AFOLUに関するプロジェクト増の要因として「森林管理や植林に関するプロジェクトは、CO2排出量削減と吸収に貢献する。また、森林を管理することで、生物多様性や伝統的なコミュニティーの保全にもつながり、その付加価値の高さにも注目が集まっている」と分析している。また、アマゾン森林のCO2吸収量の潜在力を踏まえ、今後も森林保全関連プロジェクトが増加していく可能性があると分析している(注4)。FGVはまた、AFOLUの中では農業に関するプロジェクトも今後増加する可能性が高いと分析する。FGVが2022年1月に公開した調査レポートによると、不耕起栽培を行うことで土壌中に炭素を貯留でき、併せて、農機に使う化石燃料から排出されるCO2量の削減にも寄与するという。

(注1)AFOLUは、農業・林業・その他土地利用(Agriculture, Forestry and Other Land Use)の略語。1988年に設立された政府間組織である気候変動に関する政府間パネル(IPCC)が2006年に作成した温室効果ガスの排出・吸収源に関するガイドラインの中で、排出・吸収源を大きく4つのカテゴリーに分類している。AFOLUはそのうちの1つのカテゴリー。ブラジルでは例えば、北部パラ州での違法森林伐採を監視するといったプロジェクトがあり、1,050万トンの二酸化炭素(CO2)排出削減につながると試算されている。

(注2)カーボンプライシングとは、CO2排出に対して価格付けし、市場メカニズムを通じて排出を抑制する仕組み(2021年9月10日付地域・分析レポート参照)。

(注3)ボランタリークレジット市場では、Verraなどをはじめとする民間事業者が自主的炭素基準に沿ってプロジェクトを承認し、クレジットを発行している。代表的な自主的炭素基準には、ベリファイド・カーボン・スタンダード(VCS)、ゴールド・スタンダード(GS)、アメリカン・カーボン・レジストリ(ACR)、クライメート・アクション・リザーブ(CAR)などがある(2021年9月15日付地域・分析レポート参照)。

(注4)ブラジル科学・技術・革新・通信省傘下の国立宇宙研究所(INPE)が中心となって2021年に発表した調査結果によると、2010年から2018年まで、ブラジルのアマゾン森林は、焼畑農業などの影響でCO2吸収量より排出量が多い。排出量から吸収量を差し引いた結果、年間の平均で約8億7,000万トンのCO2を大気に排出する結果になった。INPEは、焼畑農業などがなければアマゾン森林は年平均で1億9,000万トンのCO2を吸収することができたと予測しており、森林保全に取り組むことで、CO2吸収量を増加させることができると説明している。

(エルナニ・オダ、古木勇生)

(ブラジル)

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