欧州議会常任委員会、2035年までの新車ゼロエミッション化目標の修正提案

(EU)

ブリュッセル発

2022年04月22日

欧州議会の産業・研究・エネルギー委員会(ITRE)は4月20日、欧州委員会が2021年7月に発表した乗用車・小型商用車(バン)の二酸化炭素(CO2)排出基準に関する規則の改正案(2021年7月16日記事参照、注1)に対する、ITREとしての修正案PDFファイル(外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)を賛成多数で採択した。2025年と2030年目標(注2)は欧州委案のままとしたが、2035年以降は新車の乗用車、バンの排出量について、欧州委が「100%削減」(2021年比)としたのに対して「90%削減」へ修正し、2027年に規則を見直すことを提案した。

欧州委案では、「2035年以降の内燃機関搭載車の生産を実質禁止」することを意味していたが、ITREの意見書では、電動化を支持しながらも「時期尚早な政治決定は車両のゼロエミッション化に伴う経済や産業、社会、環境面でのコストを過小評価している可能性がある」と危惧した。例えば、車両に搭載するバッテリー生産によるCO2排出や、EU域内の電力網や充電インフラなどに懸念があり、「ある1つの技術に全てをかけることで、同時に研究開発や雇用、欧州の競争力について産業界に重大な混乱を引き起こし、他の産業部門を弱体化させるかもしれない」とした。

関連業界は内燃機関搭載車生産の実質禁止の撤回を期待、議決結果を歓迎

ITREの議決結果は法的拘束力があるものではないが、欧州自動車部品工業会(CLEPA)は同日付の声明で、電動化以外の技術を排除するのではなく、さまざまな技術の活用を認めようという「重要なシグナル」を送るものだと評価した(プレスリリース外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)。CLEPAはかねて雇用への影響に鑑み、電動化を脱炭素化の唯一の手段とすることに強い懸念を示してきた(2021年12月7日記事参照)が、「90%削減」とすることで、プラグインハイブリッド車(PHEV)を含む、気候中立への移行をより良い方法で進めていくのに必要な全ての技術を引き続き活用できると歓迎した。

また、ITREの修正案で、欧州委が2023年末までに乗用車とバンのライフサイクル全体でのCO2排出量を評価、報告するためのEU共通の方法論を策定するとした条項が追加されたことに支持を表明し、「気候中立達成に不可欠」として、欧州委の迅速な対応を求めた。さらに、欧州委案では「2030年に廃止」とされていた、ゼロおよび低排出車(ZLEV)の販売台数が総販売台数で一定の割合を超えたメーカーに対するインセンティブを「維持」したことも、上記のCO2排出量に関する方法論が実施段階となるまでは、効率的な技術の活用を続けるために必要だと歓迎した。

今後、欧州議会の環境・公衆衛生・食品安全委員会(ENVI)と本会議が同改正案についての議決をそれぞれ5月、6月に行う。CLEPAはITREの議決結果は両者にとって「前向きな指標となる」と、欧州委案の修正に期待を寄せた。

(注1)同規則の改正案などについては、ジェトロ調査レポート「『欧州グリーン・ディール』の最新動向(第3回)モビリティ政策の動向PDFファイル(1.2MB)」(2022年2月)も参照。

(注2)欧州委は2025 年には乗用車・バンともに15%削減、2030 年には乗用車は 55%削減、バンは 50%削減という目標を設定している(いずれも2021年比)。

(滝澤祥子)

(EU)

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