現地日本語学校に聞く、需要高まるバングラデシュの日本語人材

(バングラデシュ)

ダッカ発

2022年04月04日

近年、バングラデシュでは日本語学習者が急激に増加している。国際交流基金の調査外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます(2018年度)によると、2015年から2018年までの間に、学習者数は4,801人(2015年比2.2倍)にまで増加。南アジア諸国の中で、バングラデシュはインド、スリランカ、ネパールに次いで4番目に日本語学習者が多く、増加率は南アジアの中で最も高い。加えて、2018年時点の日本語学習機関数は85校(2.3倍)、日本語教師数は220人(2.3倍)と、それぞれ増加傾向にある(添付資料表参照)。

近年のバングラデシュにおける日本語学習者の増加の背景、日本語人材・教育の需要について、当地の日本語教師会事務局長で、志&和子ブイヤンジャパニーズカルチュラルセンター(以下、志カルチュラルセンター)の岡林邦明校長に聞いた(3月1日)。

(問)同センター設立の背景、取り組みは。

(答)「自身よりも他人のために」という利他の心を、日本語を通じてバングラデシュの現代の若者に教えたいという思いから、日本語教師として2009年1月からバングラデシュで活動を開始。2010年10月に志カルチュラルセンターを設立した。

現在は、主に日本への留学希望者に対して、現地スタッフ2人と自身の3人で、留学に必要なレベルの日本語を教えている。また日系企業などのスタッフや、ダッカ市外在住の生徒に対して、各ニーズに応じた授業時間およびコンテンツで、オンライン授業を実施している。

(問)バングラデシュにおける日本語教育の状況について、増加の背景と課題は。

(答)現在、義務教育機関において日本語教育は行われていない。バングラデシュ最高峰の国立ダッカ大学の現代言語研究所(日本語専攻、注1)、同大学の日本研究学科(注2)および国際関係学科で、一部学生が日本語を履修しているが、国内の日本語学習者の大半は、私立の日本語学校で受講している。

多くの学習者は1カ月から半年の期間で、日本の日本語学校入学に必要なN5レベル(注3)まで学ぶ。年齢は18〜25歳が多く、男女比はおよそ9:1といわれている。男女比の偏りは、同国での女性の社会進出が進んでいないことが背景にある。また、近年、日本のアニメの普及により、日本語に触れる子供の数は増加傾向にあり、学習者の低年齢化が進んでいる。

学習者増加の背景として、当地ICT(情報通信技術)人材向けの「日本市場向けバングラデシュITエンジニア育成プログラム(B-JET)」(注4)が挙げられる。同プログラムにより、当地から日系企業への就労の機会が認識され、日本語学習に興味を持つ者が増えた一因になったと考えている。

一方、教師の多くはバングラデシュ人で、現地で教鞭(きょうべん)をとっている日本人はわずかだ。そのため教科書を翻訳して伝える、自分の知識をそのまま伝えるにとどまっている。教育方法が体系化されていないことが課題の1つといえる。

(問)日系企業にとっての、バングラデシュの日本語人材の可能性は。

(答)バングラデシュの最大の資源は「人材」で、人口は約1億7,000万におよぶ。また比較的真面目で明るい学生が多い印象で、日系企業・日本人との親和性は高いといえるだろう。

また、今まではバングラデシュでの日本語学習を経て、日本の日本語学校や大学に入学するという流れが主流だった。しかし今後は、ダッカ大学日本研究学科の第1期生の卒業予定(2022年8月)も控えており、当地での新たな人材採用のチャンスも広がっていくだろう。

(問)今後の貴校の取り組みは。

(答)日本語教育を通じて、バングラデシュの女性の社会進出にも貢献していく。日本語を通して、日本人の考え方や文化も伝えつつ、自分でより物事を考えることができる能動的な人材を育成したいと考えている。

ダッカ日本商工会の会員企業数は現在120社で、年々増加傾向にある。また2022年内に操業開始が予定されているバングラデシュSEZ(経済特区)(2022年3月28日記事参照)は、日本企業のバングラデシュ進出を後押しすることが予想され、それに伴い、日本語人材への需要も今後一層高まっていくだろう。

写真 志カルチュラルセンターの岡林邦明校長 兼 日本語教師会事務局長(志カルチュラルセンター提供)

志カルチュラルセンターの岡林邦明校長 兼 日本語教師会事務局長(志カルチュラルセンター提供)

(注1)ダッカ大学内にある、バングラデシュで初の外国語の政府系研究機関。

(注2)日本の社会、政策、文化など幅広い分野の研究を目的に、2017年7月に設立された同大学社会学部内の学科。

(注3)日本語能力試験(JLPT)における「基本的な日本語をある程度理解することができる」程度のレベルを指す。

(注4)国際協力機構(JICA)が2017年11月に開始した、技術協力プロジェクトの一環。2020年10月までの3年間で、合計280人のIT人材が日本語を学習し、うち186人が日系企業に就職。

(八百板翼、山田和則、安藤裕二)

(バングラデシュ)

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