国連、温室効果ガス排出削減策を提言(IPCC報告書)

(世界)

国際経済課

2022年04月06日

国連の気候変動に関する政府間パネル(IPCC)は4月4日、気候変動緩和に関する報告書外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます(注1)を発表した。政策立案者に対する要約の中で、世界の平均気温を1.5度(注2)の上昇に抑えるためには2025年以前に温室効果ガス(GHG)の排出量のピークを迎え、2030年までに(2019年比で)43%削減(2度上昇の場合は25%削減)する必要がある、と指摘する。1.5もしくは2度上昇に抑えるためには、全業種、全地域、官民を含め、2030年までに必要となる(平均)投資額が、現在の水準の3~6倍に上るとしている。

同目標達成に向けて同報告書で示された方策のうち、GHG排出量が大きいエネルギー、産業、輸送の各部門における主なものは以下のとおり。

(1)エネルギー部門

化石燃料使用の大幅な削減、低排出エネルギーの開発、代替エネルギーへのシフト、エネルギー効率化、省エネなどが求められる。

風力や太陽光、蓄電などの技術における導入コストの低減(注3)により、2030年に向けた低排出エネルギーへの移行による経済的なメリットは増加した。再生可能エネルギーを主力電源とする場合、それを前提とした電力システムの構築が求められ、エネルギー貯蔵、スマートグリッド、ディマンドサイドマネジメント、バイオ燃料、電解水素など幅広いソリューションの導入が必要となる。

(2)産業部門

バリューチェーン全体において、需要管理、エネルギー・材料効率化、資源の循環システム化、生産工程における排出削減技術(の導入)や抜本的な変革など、あらゆる緩和策を講じる必要がある。

(炭素集約度が大きい)鉱石から作るバージン金属、建築資材、化学品といった基礎材料における低・無排出生産の技術や水素利用は、まだ商業利用段階にはない。新技術の商業利用は可能でも生産コストが増加するため、最終消費者の段階ではわずかながらでも販売価格の引き上げにつながる。そのため、それまでは、例えば、セメント生産で大幅に排出削減を行う場合はセメント系の代替材料や二酸化炭素回収・貯留(CCS)技術の利用、化学品の生産・利用の場合はカーボンリサイクルや直接空気回収(DAC)の実施など、既存の技術に頼るしかない。

炭素集約度の大きい産業については、その拠点やバリューチェーン全体を変えることにもなる。低炭素燃料・原料が豊富な地域は、低炭素電力や水素ベースの化学品や材料を輸出することでき、(生産や販売拠点の)再配置による雇用や経済面での効果が期待できる。

(3)輸送部門

利用者の選択肢(の増加)や低排出技術の導入により、先進国では排出量を削減し、新興国では排出量の伸びを抑制することができる。特に低炭素電力を利用したEVは、脱炭素化を最も推し進める。(内燃機関車における)バイオ燃料(の利用)も短中期的には気候変動緩和効果がある。

また、船舶、航空機、大型車においては、バイオ燃料、低炭素水素、合成燃料などの利用が緩和につながる。ただし、それら輸送機器の生産工程における(排出削減に向けた)改善やコスト削減などが必要となる。

都市間や市内の輸送インフラへの投資、テレワークやカーシェアリングなどの導入により、旅客・貨物輸送の需要減少につなげることができる。

(注1)同パネルの第3作業部会(気候変動緩和担当)による第6次評価報告書。当初2021年7月の発表予定だったが、新型コロナウイルス感染拡大により発表が遅れていた。なお、前回の第5次評価報告書はパリ協定(2015年12月採択)に先立つ2014年の発表。

(注2)国連気候変動枠組み条約第26回締約国会議(COP26)で合意された、世界の平均気温の上昇を産業革命以前と比べて1.5度以内に抑えるという目標。

(注3)低炭素技術の導入コストが2010年からの10年間で、太陽光で85%、風力で55%、電気自動車(EV)向けのリチウムイオン電池で85%、それぞれ下がったことで、導入量(電池はEV台数、それ以外は設備容量)が増加したとしている。

(古川祐)

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