欧州委の産業排出指令改正案、不必要な改正と欧州産業界が批判

(EU)

ブリュッセル発

2022年04月11日

ビジネスヨーロッパ(欧州産業連盟)は4月5日、欧州委員会が同日発表した産業排出指令の改正案(2022年4月7日記事参照)について、「産業活動を不必要に複雑にするものだ」と批判する声明を発表した(プレスリリース外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)。ビジネスヨーロッパは、現行の指令は「利用可能な最良の技術(BAT)」に基づき、汚染物質の排出に対して総合的なアプローチで人の健康や環境の高度な保護を目指すものであり、「欧州グリーン・ディールの目標に沿って、欧州産業界が進めるグリーン化の実現に適している」とした。

改正案は、ウクライナ情勢などを受けてEU経済が困難な状況にある「誤った時期」に提案され、今はEU経済を守る必要があるにもかかわらず、産業活動がより複雑なものになるのは避けられなくなるだろうと批判した。その上で、現在必要なことはグリーン化へ向けてEU域内での投資事業の認可手続きを簡素化、迅速化することだと訴えた。また、改正案の中には、欧州委が既に発表している別の法案の対象事項もあり、それらに加えて産業排出指令も改正するとなれば、将来的にどういった規制が適用されるのか不確実な時期が長引くと指摘。EUは事業許可を加速させ、産業界の変革を促進し、企業にかかるコスト面や規制といった負担を減らしていくべきだとして、EU理事会(閣僚理事会)と欧州議会に対して、欧州委案を大幅に見直すように求め、ビジネスヨーロッパも法案の審議プロセスの軌道修正を支援するとした。

現行指令は「貴重で効果的なツール」と、改正の必要を疑問視

欧州化学工業連盟(Cefic)も4月5日、産業排出指令の改正案に関する声明を発表し、改正案の全般的な政策目的は支持するが、改正案には欧州産業界の競争力の強化につながる点が全くないと述べた(プレスリリース外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)。Ceficは、2050年までに気候中立を実現という目標の達成に向けて既に産業界にとっては多くの困難がある中、企業は欧州での事業や欧州発の技術へ投資するために明確性や確実性を求めていると指摘。化学工業界にとって、現行の指令は産業排出の削減に「貴重で効果的なツールとなっていた」が、改正案は実際にどのように適用されるのかが曖昧だと述べ、暗に改正の必要性に疑問を呈した。その上で、現在の排出許可の見直しや今後の認可プロセス、新興技術の活用などについて、改正案の内容をより明確にするようを求めた。Ceficは、2050年までに気候中立を達成するには今後10年間が非常に重要な時期となり、今まで以上に規制プロセスの安定性と明確性が必要だと訴えた。

(滝澤祥子)

(EU)

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