下院が改正労働法を承認、有期雇用の規制強化で雇用格差の改善目指す

(スペイン)

マドリード発

2022年02月21日

スペインの改正労働法が2月3日、下院で承認された。改正は2021年末の官労使合意に基づくもので、12月31日から段階的に施行されている。スペインはEUで最も失業率が高く(2021年12月は13.0%)、有期雇用率もEU平均の倍に近い26.1%〔2021年第3四半期(7~9月)〕だ。それが雇用不安定や労働生産性の低さにつながっているとされる。

今回の改正ではこの有期雇用率の高さに焦点を当て、「雇用契約は原則的に無期とみなす」と明記した。また、有期雇用の新規契約の4割を占め、有期雇用を助長してきた最長4年間の「工事・サービス委託契約」を廃止。今後、建設労働者は全て無期雇用契約となるほか、具体的な期間の定めのない業務委託も基本的に無期雇用契約を結ぶこととなる。

従って、今後の有期雇用は、(1)生産活動の一時的な増加に伴う臨時増員(期間上限は原則6カ月、業種により最長1年まで)、(2)正社員の休業・休職時などの代替雇用のみに限定される。さらに、商店のクリスマスやバーゲン期、農作物の収穫期、農産品の加工期など、一時的な労働需要が事前に予測できる場合は、有期雇用期間の上限を年間通算90日間に短縮。スペインでは観光関連業などで季節労働を毎年繰り返す無期雇用契約が存在するが、今回の改正では上記のような季節的、または周期的、断続的に働く短期労働者も、年間通算90日間を超える場合は、このタイプの無期雇用契約を適用できるようになる。

無期転換(正社員化)のルールも強化し、同一グループ企業の有期労働契約の反復更新は30カ月の期間内に通算24カ月まで認められていたのが、改正後は24カ月の期間内に18カ月までとなり、この上限を超えると無期雇用契約に切り替わる。

不正な雇用契約に対する罰則も大幅に強化し、違反件数のカウントが従来の企業単位から、該当労働者1人当たり1件となったほか、労働査察も強化する。これらの措置によって統計上の有期雇用率は下がるだろうが、雇用の実質的な質改善や安定化につながるかどうかについては疑問視する声もある。

EV化など産業構造転換期にもレイオフ支援が可能に

改正法では、「新型コロナ禍」における失業抑制に寄与したレイオフ(一時帰休)支援制度を拡充し、職業訓練と組み合わせた実施を奨励する。また、今後新たな不況が起こり、大規模な雇用調整の必要が生じた際は、閣議承認により原則1年以内で大規模なレイオフ支援を発動させることができる。この「REDメカニズム」は、自動車のEV化に伴う産業構造転換など、特定セクターの雇用や必須技能に大きな変化が起こる場合にも適用され、労働者への給与補填(ほてん)や職業訓練、企業の社会保険料減免が行われる。

(伊藤裕規子)

(スペイン)

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