米海洋大気局、米沿岸の海面が2050年までに最大30センチ上昇の可能性を指摘

(米国)

ニューヨーク発

2022年02月21日

米国海洋大気局(NOAA)は2月15日、米国沿岸における今後の海面上昇の可能性に関するレポート外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますを発表し、2050年までに米国沿岸の海面が最大で30センチ上昇する可能性を指摘した。これは、過去100年間(1920~2020年)に計測された上昇幅と同水準で、急速な海面上昇の可能性に警鐘を鳴らしている。

2017年にも同じ趣旨のレポートが作成されているが、今回はNASA(米航空宇宙局)や環境保護庁など6つの政府機関の協力を得て、海面化学技術の進歩や最新のデータを踏まえ作成された。

今後30年間の上昇幅は沿岸地域によって異なり、ニューヨークなど東海岸地域で最大35センチ、テキサスやフロリダなどガルフコーストで最大45センチ、カリフォルニアなど西海岸で最大20センチとなっている。また、こうした海面上昇によって、高潮や浸水など日常生活に損害を与えうる洪水は、現在よりも10倍以上の頻度で発生する可能性があるとしている。報告書によれば、現在のペースで進んだ場合、米国沿岸の海面は2100年までに約60センチ上昇する可能性があるが、温室効果ガス(GHG)の排出量削減が想定どおりに進まず温暖化がさらに加速した場合、グリーンランドと南極における氷河の融解が急速に進み、2100年までに最大2.1メートルの海面上昇を引き起こす可能性がある。

ニューヨーク市マンハッタンも、洪水リスクが非常に高い地域だ。報告書でも、ニューヨークでは満潮時の軽微な洪水が2000年時点で年5回程度だったが、2020年には年10~15回発生したと指摘されている。海面が60センチ上昇した場合、マンハッタンに住む約8,000人の住居がその水面下になってしまうという指摘もある(ブルームバーグ2月15日)。実際、2021年に発生したハリケーン・アイダの災害時には、低地に住む多くの人々が被害に遭った。

こうした高い洪水リスクを踏まえて、ニューヨーク市では、マンハッタン南東部の4キロにわたり防波堤や土手、公園などを整備する「East Side Coastal Resiliency (ESCR)プロジェクトPDFファイル(外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)」の建設工事が2020年から進行中だ。2025年までに14億5,000万ドルを建設に費やし、海面上昇や沿岸付近の嵐などから周辺住民を守る。しかし、こうした動きに懸念する声も上がっている。プロジェクトでは工事過程で1,000本の木が伐採され、新たに1,800本が植樹される予定だが、景観を損なうなどの理由からこれに反対し、工事の一時停止を求めて訴訟を起こす住民グループも現れた(E&Eニュース2021年12月22日)。また、別の住民グループの中には、ニューヨーク市庁舎の前で居座り抗議を行う動きもみられ(「ニューヨーク・ポスト」紙電子版2021年11月30日)、当該プロジェクトについて各地で調整が難航している。

環境対策は重要な一方で、その解決に向けたアプローチは個々の考え方によって変わってくる。ESCRプロジェクトの現状も、こうした環境対策に係る調整の難しさを如実に表しているといえる。

(宮野慶太)

(米国)

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