ブラジル・チリFTAが発効、近代的な内容で中南米域内協定をリード

(ブラジル、チリ)

サンパウロ発

2022年02月10日

ブラジル・チリ自由貿易協定(FTA)が1月27日、発効した(注1)。ブラジル政府は、1月26日付政令10.949号を同月27日に公布した。

ブラジルが加盟するメルコスールは、既にチリとの間で財を中心とした経済補完協定(ACE)35号を締結しており、物品貿易については自由化されている(注2)。今回、ACE35号をより広いテーマで補完する第64次追加議定書が追加された。

同追加議定書は、24章で構成されている。チリ外務省国際経済関係次官官房(SUBREI)によれば、通信、電子商取引、サービス貿易、環境、人権、ジェンダー、貿易の技術的障害(TBT)、政府調達、貿易円滑化、良き規制慣行などにおいて、現代的な内容が盛り込まれている。

衛生と植物防疫のための措置(SPS)(第4章)では、動物由来の製品などを相手国に輸出する際、輸出業者の施設が、輸入国側が実施する事前の個別検査を受ける必要がなくなることを規定している。その代わり、輸入国側が定める衛生安全基準を満たした輸出業者の施設をリスト化し、それを輸入国側で承認することになる。1月29日付現地紙「エスタード」によれば、これにより輸出手続きの迅速化とコスト削減につながり、食肉分野の潜在的な輸出業者が増える可能性がある。

電子商取引(第10章)では、各国でEコマースに関する法整備を進めることを規定している。サーバーなどの設置を指すとみられる「コンピュータ関連設備の設置」については、自国の領域への設置を原則要求しない(注3)。中小零細企業もEコマースへ参加できるようデジタル技術導入を推進していくことや、オンラインショッピングを行う消費者の個人情報を保護することなどを通じて、両国ユーザーによる電子商取引への信頼を取り付け、Eコマースを発展させることを目指している。

通信(第11章)では、協定発効から1年後、2国間での国際移動端末ローミングにかかる料金を課さないことを規定。観光客の往来を活性化させたい狙いがある。

政府調達(第12章)によると、チリおよびブラジルの中小零細企業が双方の政府調達市場への参加が可能となる。1月18日付現地紙「バロール」によれば、全国工業連盟(CNI)のファブリシオ・パンジーニ氏は「年間110億ドルの市場規模になる」と期待を寄せる。

経済・商業協力(第19章)では、ブラジルのカシャッサ、チリのピスコについての地理的表示(GI)を保護することを規定している(注4)。

その他、貿易円滑化(第2章)、良き規制慣行(第3章)、TBT(第5章)、国境を越えたサービス貿易(第6章)、地域およびグローバル・バリューチェーン(第15章)など、ビジネス環境の改善に資する章立てが盛り込まれている。また、貿易と労働問題(第16章)、貿易と環境(第17章)、貿易とジェンダー(第18章)など、国際的に重要性が増しているテーマも含んでいる。

1月18日付現地紙「バロール」によれば、ブラジル外務省米州地域・2国間交渉局のペドロ・ミゲル大使は「同協定は中南米地域で最も近代的なもので、メルコスールが現在交渉中の他の協定にも生かしたいモデルだ」と評価している。

(注1)ラテンアメリカ統合連合(ALADI)や米州機構貿易情報システム(SICE)の公式サイトでは1月25日発効、ブラジル官報や現地メディアでは1月27日発効となっている。本ビジネス短信では、ブラジル側の報道に基づき1月27日発効とした。

(注2)ブラジル経済省貿易統計(COMEXSTAT)のデータによれば、2021年のブラジルからチリ向け輸出額は69億9,954万ドルで国別5位。主要な輸出品目をみると、金額の多い順に原油(構成比27.7%)、牛肉(6.6%)、自動車(4.4%)と続く。輸入額は44億2,229万ドルで、国別12位。主要な輸入品目は、精製銅または銅合金の塊(41.6%)、魚(13.8%)、銅鉱(7.5%)。

(注3)ただし、公共政策の正当な目的達成のため制限を課すことなどは、一定の条件を満たす限り許容される。

(注4)カシャッサは、サトウキビを原料として作られるブラジル原産の蒸留酒。ピスコは、ペルーとチリで生産されているブドウを原料とした蒸留酒だが、原産性をめぐる論争がある。こうした背景のためか、今回締結したFTAでは、ブラジルがペルーのピスコの地理的表示(GI)を保護する可能性は排除しないことを明確にしている。

(古木勇生)

(ブラジル、チリ)

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