統一特許裁判所(UPC)協定の暫定適用が開始、UPC設立に向けて大きく前進
(EU)
ブリュッセル発
2022年01月21日
統一特許裁判所(UPC)準備委員会は1月19日、UPCの設立に必要なUPC協定の暫定適用に関する議定書が発効したと発表(プレスリリース)した。現在、EUの24加盟国(注1)は、欧州特許に関する共通の裁判所としてUPCの設置準備を進めている。議定書が発効し、UPC協定の暫定適用が開始されたことで、UPCは法人格を有することになり、今後、運営委員会などの内部組織の設置、手続き規則の採択、裁判官の任命などの設置準備が本格化する。
暫定適用期間は、最低でも8カ月程度を要すると想定されており、UPCの設置準備が整った段階で、ドイツがUPC協定を批准することが見込まれている。ドイツによる批准手続き完了の届け出から4カ月後にUPC協定が正式に発効(注2)し、UPCは業務を開始することになる。英国がEU離脱に伴いUPC協定の批准を撤回したことから、UPC第1審裁判所の中央部支部の設置都市(支部の1つがロンドンに設置されることがUPC協定に規定)の新たな選定が必要となるなど、不確定要素はあるものの、UPCの設立と業務開始に向けて大きく前進したかたちだ。
UPC協定の発効により、欧州単一特許制度も運用開始
欧州では既に、国内特許制度とともに、欧州特許制度が確立しており、特許の出願人は手続き上、欧州各国の特許庁へ個別に出願しなくても、欧州特許庁(EPO)に出願するだけで、欧州特許を取得することが可能だ。しかし、現状では、EPOが欧州特許を付与した場合でも、実際に権利を行使する場合には、欧州各国ごとに有効化(validation)の手続きを経る必要があり、コスト面などの課題が指摘されている。
今後、UPC協定が正式に発効すると、単一特許規則の適用も開始することから、欧州各国での有効化の手続きを経ずに、UPC協定の全批准国(注3)において単一的な効力を持つ欧州特許の取得が可能となる。また、欧州特許が侵害された場合には、特許権者は、UPCへの訴えを起こすことで、これまでより容易に権利保護を受けることができる。
(注1)EUの全27加盟国のうち、スペイン、ポーランド、クロアチアは未参加。
(注2)UPC協定の発効には、特許件数の上位3カ国を含む13カ国の批准が必要。現時点では、16カ国(注3)が批准済み。欧州特許件数2位、3位のフランス、イタリアは批准済みだが、1位のドイツは未批准。
(注3)現時点では、オーストリア、ベルギー、ブルガリア、デンマーク、エストニア、フィンランド、フランス、イタリア、ラトビア、リトアニア、ルクセンブルク、マルタ、オランダ、ポルトガル、スロベニア、スウェーデンが批准済み。ドイツは批准見込み。
(吉沼啓介)
(EU)
ビジネス短信 efce830fd81cef53