2021年の世界の直接投資額は77%増、新型コロナ感染拡大前を上回るも不均衡広がる

(世界)

国際経済課

2022年01月25日

国連貿易開発会議(UNCTAD)が1月19日に発表した報告書外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますによると、2021年の世界の対内直接投資額は前年比77%増の1兆6,470億ドルと推計した。新型コロナウイルス感染拡大を受けた2020年の投資額は9,290億ドルまで落ち込んだが、2021年はパンデミック前の2019年(1兆4,730億ドル)を上回る水準に回復した。他方、国・地域、産業分野による回復ペースの格差を受け、UNCTADは「回復は極めて不均衡」(the recovery is highly uneven)と報告した。

先進国・地域の対内直接投資額は、前年の急落を受けた反動増により、前年の約3倍(7,770億ドル)の大幅増となった。先進国・地域の増加分が世界の投資額増の72%を占めた。とりわけ、米国向けは2.1倍の3,230億ドルへと拡大。2020年に首位だった中国を抜き、最大の投資受け入れ国となった。米国への投資を牽引したのは、前年の約3倍の2,850億ドルに達したクロスボーダーM&Aで、同国向け直接投資の9割近くを占めた。

新興・途上国・地域向けの投資は前年比30%増(8,700億ドル)で、先進国・地域と比較すると回復は緩やかだ。東アジア向けの投資は前年比14%増で、パンデミック前の2019年との比較でも40%増となったが、東南アジア向け、中南米向けは、いずれも2019年とほぼ同じ水準で足踏みしている。なお、後発開発途上国(LDG)向けは前年比19%増(280億ドル)にとどまり、新規投資の動きはさらに力強さを欠いている。

主要国・地域別にみると、中国の対内直接投資額は好調なサービス産業に牽引され、前年比20%増の1,790億ドル、2019年比でも27%増となった。ASEAN向けは前年比35%増の1,840億ドルで、2019年(1,810億ドル)の水準まで回復した。インド向けは大型投資案件のあった前年と比べ26%減となった。EU向けは大幅な落ち込みとなった前年から8%増の1,650億ドルで、2019年(4,510億ドル)の4割を割り込んでいる。

分野別にみても、回復には不均衡がみられた。2021年のインフラ分野の国際プロジェクトファイナンス件数は、有利な長期融資条件や景気刺激策などに支えられ、53%増(1,840件)の2桁増だった。インフラ分野の国際プロジェクトファイナンス件数は、大半の産業でパンデミック前の水準を上回ったが、中でも再生可能エネルギーが46%増の1,090件と、全体の約6割を占めた。

対照的に、産業分野の対外グリーンフィールド投資件数は1%減(金額は7%増)と、前年からほぼ横ばいで、対2019年比でも30%減と停滞している。世界的な製造・流通工程(GVC:グローバルバリューチェーン)を前提とする電気・電子機器産業では、投資件数が前年比1%減、2019年比27%減と回復が特に遅れている。GVC関連では、情報通信(デジタル)産業だけが例外的に件数で15%増、金額で22%増となり、既にパンデミック前の水準まで回復した。

世界のクロスボーダーM&Aについては、案件数が30%増の8,054件(金額は49%増の7,100億ドル)へと回復し、うち7割以上がサービス業(5,947件)だった。中でも情報通信産業は54%増の1,928件へと急増し、全体の4分の1を占めた。

2022年の世界の対内直接投資額の見通しについて、UNCTADは、インフラ分野の投資増を背景に基本的には緩やかに推移すると予測する。一方、パンデミックの長期化は、引き続き大きな下振れリスクと言及。新興・途上国・地域でのワクチン接種ペースや、各国・地域でのインフラ投資促進策の実行スピード、サプライチェーンのボトルネック、エネルギー価格動向などによる投資の先行きへの影響が懸念されるとした。また、UNCTAD投資・企業部門ダイレクターのジェームズ・チャン氏は、新型コロナの影響や地政学的な緊張の高まりなどにより、製造業やGVCへの新規投資はいまだ低水準にとどまっているとし、景気回復とこれら分野への新規投資の回復にはタイムラグがある点を指摘した。

(森詩織)

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