EUのガス・電力価格の記録的な高値続く

(EU)

ブリュッセル発

2022年01月19日

欧州委員会は1月17日、2021年第3四半期(7~9月)のEUのガスと電力の市場に関する四半期レポートを公表した(プレスリリース外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)。世界的なガス価格の上昇を背景に、同四半期中にEUのガス価格は過去に前例のない高水準を記録し、これに連動して電力価格もほとんどのEU加盟国で記録的な高値となっていることが確認された。さらに、同四半期以降も2021年末にかけてこの傾向に拍車がかかっているとした。同レポートは、欧州委が2008年以降、EUエネルギー市場のモニタリングを目的に、四半期ごとに取りまとめているものだ。

EUガス市場に関する四半期レポートPDFファイル(外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)によると、ガス卸売価格(スポット価格)は第3四半期末時点で85ユーロ/メガワット時(MWh)となり、同期首の37ユーロ/MWhの2倍以上となった上、その後も年末にかけて100ユーロ/MWhを上回る記録的な水準を維持している。先物価格も高値が続いていることから、数年前のような価格水準への回帰は当面見込み難いと展望した。高価格の主な要因の1つとしてレポートでは、域内のガス貯蔵率の低下に言及している。貯蔵可能容量に対する2021年9月末時点での貯蔵率はEU平均で74.6%と、暖房需要が高まる冬季を前にした9月時点の水準としては過去10年で最低レベルだとし、ロシアからの輸入量が想定より少なかったことなどを要因に挙げた。

卸売電力価格が3~4倍に跳ね上がった加盟国も

EU電力市場に関する四半期レポートPDFファイル(外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)ではまず、2021年第3四半期中、域内経済が堅調に回復した結果、EU全体での電力消費は前年同期比で3%上昇したと説明。しかし、今回の経済回復は国際的なサプライチェーンの著しい混乱を伴ってまず欧州のガス価格を直撃し、この影響を受けて欧州の卸売電力価格も記録的に上昇したと、因果関係を整理した。卸売電力価格の域内水準の指標である欧州電力ベンチマークは期中平均で105ユーロ/MWh(前年同期比211%増)を記録。加盟国の中では、アイルランド(前年同期比4.2倍)、ポルトガル(3.2倍)、スペイン(3.1倍)などで特に価格上昇が顕著だった。また同レポートでは、再生可能エネルギー由来の発電量が伸びてシェア37%で、化石燃料由来の発電量のシェア35%をわずかながら上回ったというポジティブな要素の半面、第3四半期中、ガス価格上昇に伴い石炭火力発電への揺り戻しも確認されたと指摘。石炭火力による発電量は15%上昇、これに対してガス火力の発電量は18%下落し、この結果、EUの電力セクターの温室効果ガス排出総量は二酸化炭素(CO2)換算で前年同期比1%増、前期比では13%増加した。昨今の排出量取引価格の上昇にもかかわらず、電力セクターの排出総量増加の傾向は2022年も当面続くとした。

(安田啓)

(EU)

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