政府系キャッシュレス決済手段の利用促進策発表

(インド)

ニューデリー発

2021年12月27日

インド電子・情報技術省は12月17日、キャッシュレス決済手段の普及を目的として、政府系デビットカード「RuPay(ルペイ)」とデジタル決済システム「BHIM(ビーム)」の利用促進策PDFファイル(外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)を発表した。対象期間は2021年度(2021年4月1日~2022年3月31日)の1年間と開始時期がさかのぼり、要件を満たす提携銀行に決済金額の一定割合が奨励金として支払われる。政府は必要な予算総額として130億ルピー(約195億円、1ルピー=約1.5円)を見込んでいる。

「RuPay」はインド決済公社(NPCI)が管理するカード決済用ブランドだ。政府の後押しを受け、現在「RuPay」のデビットカードは主要銀行を筆頭に1,000以上の金融機関で発行されている。発行枚数も6億枚を超えるなど、国内では「VISA(ビザ)」や「Mastercard(マスターカード)」と並ぶブランドに成長している。今回発表された奨励金の基準は、保険や投資信託など特定分野(注1)の支払いに対しては決済金額の0.15%(1決済当たり上限6ルピー)、それ以外の支払いでは決済金額の0.40%(1決済当たり上限100ルピー)とされた。ただし、四半期ごとの決済回数が前年同期比10%以上増加していることが要件だ。

他方、「BHIM」はインド政府が主導する電子決済プラットフォームのUPI(統合決済インターフェース)を基盤として、NPCIが開発したデジタル決済システムだ。利用者は「BHIM」のアプリを搭載したスマートフォンなどを使い、QRコードや携帯番号などの情報で加盟店舗への支払いができるだけでなく、個人間の送金も可能だ。今回の奨励金は加盟店舗に対する2,000ルピー以下の少額決済が対象で、特定分野(注2)の支払いに対しては決済金額の0.15%、それ以外は決済金額の0.25%が支給される。四半期ごとの決済回数は、前年同期比50%以上増えていることが要件として定められている。

近年、インドでキャッシュレス決済手段は急速に浸透しており、新型コロナウイルス禍の2020年度の同決済回数は555億回と、3年前の2.7倍に伸びた。政府は今回の奨励策で、提携銀行に「RuPay」や「BHIM」の営業強化に対するインセンティブを与えることにより、まだキャッシュレス決済手段を使っていない層を中心に一層の普及を図りたいとしている。

一方、政府が自国の政府系ブランド「RuPay」を推進することで業界内の公平な競争が阻害されているとして、ビザが米国通商代表部(USTR)に競争環境への懸念を非公式に申し入れたと報じられている(ロイター11月29日)。同様の申し入れは、2018年6月にマスターカードも非公式に行ったとされている。

(注1)「RuPay」の特定分野は、保険、投資信託、政府、教育、鉄道、農業、燃料、宝石、病院。

(注2)「BHIM」の特定分野は、保険、投資信託、政府、教育、鉄道、農業、債権回収、燃料、石油製品、資金提供、電子通信、公共料金、ビジネス・個人サービス、病院。

(広木拓)

(インド)

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