欧州委、北アイルランドへの医薬品供給の継続性を保障と提案

(EU、英国)

ブリュッセル発

2021年12月20日

欧州委員会は12月17日、EU・英国間で交渉が続く「アイルランド・北アイルランド議定書」の実施に関する論点のうち、医薬品の供給に関する解決策を提案した(プレスリリース外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)。解決策は、欧州委が10月13日に示した調整案(2021年10月18日記事参照)の医薬品分野の提案に従う内容。EU離脱によりEU法が適用されなくなった英国グレートブリテン島から、北アイルランド議定書によりEU法が引き続き適用される英国の北アイルランドへの医薬品の供給について、例外的措置として、EU側では原則として追加的な承認手続きを求めないことをEU法に組み込むものだ。提案内容の概要は以下のとおり。

  • グレートブリテン島から北アイルランド市場に供給されるジェネリック医薬品は、英国での承認のみで供給可能となり、EU加盟国当局の承認を必要としない。
  • EUの医薬品規制当局である欧州医薬品庁(EMA)による審査ならびに欧州委の承認が必要ながん治療薬などの新薬は、英国で承認された場合、EUでの承認が完了するまでの間、暫定的な措置として北アイルランド市場への供給が認められる。
  • 現在、グレートブリテン島に所在する製薬会社は、全ての規制対応機能を現在地に置いたまま、北アイルランド市場に英国で承認された医薬品を供給することができる。
  • グレートブリテン島から北アイルランドに持ち込まれた医薬品に対して、同島内もしくはEU域内においてバッチテスト(市場流通前の分析試験)を経ている場合、追加的な試験実施を要求しない。
  • グレートブリテン島で製造され、北アイルランドに輸送される医薬品について、原則として追加的な製造許可や輸入ライセンスを求めない。
  • 英国の規制当局によって承認された医薬品は、グレートブリテン島、北アイルランドで共通のパッケージおよびリーフレット(説明書)を用いることができる。

通関手続き、SPS措置などの主要論点は2022年に交渉継続

欧州委は、英国のEU離脱後も猶予期間として2021年末までは移行期間中と同様の扱いを継続することを2021年1月に通知していたが、今回の提案では猶予期間を2022年末まで延長し、2022年中に欧州議会およびEU理事会(閣僚理事会)の審議を経て、立法化を実現したい意向だ。なお、提案の対象はヒトに用いられる医薬品に限られ、動物用医薬品は非対象となるが、猶予期間は動物用医薬品も同じく2022年末まで延長する。また、北アイルランドだけでなく、英国グレートブリテン島からアイルランド、キプロス、マルタの3つのEU加盟国への医薬品供給についても3年間の期限付きで、北アイルランドに対する措置の一部が同様に適用対象となる。欧州委によれば、これら3加盟国は長年、英国から医薬品供給に依存してきたため、経過措置が必要と判断された。

今回の提案は、EU・英国間で交渉が続いてきた北アイルランド議定書の実施問題のうち、医薬品分野についてEU独自の法制化により解決を図る姿勢を示したものだ。しかし、通関手続き全般や衛生植物検疫(SPS)措置などの主要な論点は合意に至っておらず、2022年始早々にも交渉を継続することとなった。

(安田啓)

(EU、英国)

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