2020年の米医療費は前年比9.7%増、新型コロナ対応で政府支出かさむ

(米国)

ニューヨーク発

2021年12月27日

米国保健福祉省のメディケア・メディケイドセンター(CMS)は12月15日、2020年の国民医療費が約4兆1,240億ドルと、前年比9.7%増加したと発表した(添付資料図参照)。伸び率は2019年の前年比4.3%増から2倍以上となった。2020年の名目GDPがマイナス2.2%となる中、新型コロナウイルス対応による連邦政府の支出がかさんだことが響いた。

2020年の国民医療費を支出主体別にみると、シェア最大の連邦政府〔36%、以下かっこ内は医療費全体に占める割合〕は前年比36%増で急増した一方、家計(26%)は1.1%増にとどまり、民間企業(17%)と州・地方政府(14%)はそれぞれ3.1%減となった。新型コロナウイルス感染症を除く一般診療が減少する中、新型コロナウイルス対応の費用負担が連邦政府の支出の大幅増に寄与した。

支出制度別では、65歳以上の高齢者などを対象にした公的保険のメディケア(20%)は前年比3.5%増、低所得者などを対象にした公的保険のメディケイド(16%)は9.2%増となった一方、民間保険(28%)は1.2%減、自己負担(9%)は3.7%減となった。特に自己負担の減少については、新型コロナウイルス感染症を除く一般診療の利用減少のほか、無保険者が減少したこと(2019年3,180万人→2020年3,120万人)も寄与した。

支出先別にみると、病院での医療サービス(31%)は前年比6.4%増、医師などによる診察サービス(20%)が5.4%増と、新型コロナウイルス対応により人件費などのサービス関連費用が増加した。そのほか、介護施設などサービス(5%)は13%増、在宅医療(3%)も9.5%増と高い伸びとなった。一方で、歯科サービス(3%)は「新型コロナ禍」の中で一般診療が減少したことから0.6%減と、2019年の4.2%増から減少に転じた。また、処方薬(8%)は3.0%増で2019年の4.3%増から減速しており、こちらも一般診療の減少や自己負担の減少などが寄与した。

2020年のGDPに占める国民医療費の割合は19.7%、1人当たり医療費は1万2,530ドルとなった。米国の国民医療費の対GDP比と1人当たり医療費はともにOECD加盟国の中で1位で、診察費など医療費の高さが指摘される。特に処方薬の高価格が問題視されており、上院で現在審議中のビルド・バック・ベター法案には、連邦政府による処方薬価格交渉や物価上昇以上の価格改定禁止などの措置が盛り込まれている(2021年11月22日記事参照)。同法案は民主党内で調整中だが、医療費は国内の関心が高いテーマであることから、同法案の医療関係支出がどのようなかたちになるのか注目される。

(宮野慶太)

(米国)

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