ヤマハ発動機に聞くオープンイノベーションの鍵

(カナダ、日本)

トロント発

2021年11月15日

ヤマハ発動機(以下、ヤマハ発)は2020年11月、カナダのスタートアップであるキャンバスAI(以下、キャンバス)への出資を発表外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますし、コーポレート・ベンチャー・キャピタル(CVC)として、製造現場の課題解決という事業シナジーと金融的リターンを追求するという。ジェトロは11月2日、ヤマハ発の技術・研究本部NV・技術戦略統括部長兼米国子会社ヤマハ・モーター・ベンチャーズ&ラボラトリー・シリコンバレー(以下、YMVSV)社長の青田元氏に話を聞いた。

(問)多くの日本企業はこれまで「自前主義」で製品開発を行ってきて、オープンイノベーションが進まないと聞くが、どうか。

(答)ヤマハ発も状況は基本的には同じ。ベンチャー企業と一緒に何かをしていくという発想自体がなかった。ただ、当社は事業領域が多岐にわたっている一方で、人的リソースには限りがある。ベンチャーのスピード感を持つビジネスへの挑戦、技術が当社の成長に資する可能性があれば活用することを考えよう、という視点から始めた。

(問)キャンバスとはどうして協業することになったのか。

(答)製造業特化型のAI(人工知能)である点が面白いというのが第一印象。そして、製造現場へのAI導入の2つの意味についてのプレゼンに説得力があった。1つ目は、管理職は知らないが製造現場にいるベテラン社員なら誰でも知っていることをAIが分かりやすく見える化すること。現場は「やっぱりね」と納得し、かつ経営幹部への報告に使える客観データができると考えた。2つ目は、現場の誰も知らなかったことをAIが見つけてくる。製造ラインでは活用されていないデータを分析して答えを導く。さまざまな温度データ、金型の開閉リードタイムなど。こうしたデータと品質不良が生まれる関係性を同社のAIを活用して導出することから協業を開始した。

(問)現場にAIを導入するときに工夫したことはあるか。

(答)実は、社内でこの技術が本当に必要な「部門」を基準に導入先を選定したわけではない。最初のプロジェクトは、こうした活動が好きな人、そして新しいプロジェクトに好意的な上司がいる部署に使ってもらった。思いのある人、パッションがある人が進めることが重要。AIというとデジタルな話と捉えられがちだが、「人」が大事。成功事例が社内で積み上げられていくと、他の部署でも、ぜひやってみたいという機運が高まる。

(問)海外スタートアップとの協業でうまくいかない例もよく聞くが、成功の秘訣(ひけつ)はあるか。

(答)われわれのCVC活動は、本社の要望を受けた出先機関ではない。本社が欲しい情報を送ることでは何も変わらないと考えており、むしろ、北米側から提示する技術や提案に対して、どう本社を動かすかという提案型。そのためにも、日本側の経営層、現場、事業部との時間を十分に取り、さまざまなニーズ、ペインを理解して、チームで共有することが重要なポイントだ。

写真 ヤマハ発動機技術・研究本部NV・技術戦略統括部長兼YMVSV社長の青田元氏(ヤマハ発動機提供)

ヤマハ発動機技術・研究本部NV・技術戦略統括部長兼YMVSV社長の青田元氏(ヤマハ発動機提供)

(江崎江里子)

(カナダ、日本)

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