中国、一部地域で不動産税を試行導入

(中国)

北京発

2021年11月09日

全国人民代表大会(全人代)常務委員会は10月23日、中国の一部地域での不動産税の試行導入を決定した。不動産税の課税対象は、住宅(農村の住宅は含まず)および非居住用不動産とする。土地使用権を有する人、住宅の所有者が納税対象者となる(注1)。

国務院は、不動産市場の安定的かつ健全な発展の促進といった観点から、試行地域を決定する。また、試行期間は、国務院が具体的に定める試行弁法の施行後5年間とされた。試行地域に該当する地方政府は別途、実施細則を策定する(注2)。

中国では、不動産投機やそれによる住宅価格の高騰を抑制するため、不動産税の導入が長年議論されてきた(注3)。2011年からは上海市と重慶市で、2軒目以降に購入する住宅、別荘、高級住宅などを対象に不動産税が試験的に導入されてきた。また、2021年3月の全人代で可決された「第14次5カ年(2021~2025年)規画と2035年までの長期目標綱要」では、不動産税の立法化を推進することがうたわれていた。

雑誌「求是」で10月16日に発表された、習近平国家主席の寄稿論文「共同富裕を着実に推進する」でも、積極的かつ着実に不動産税の立法改革を推進し、試行に向けた取り組みを適切に行うと明記されていた。

中国財政科学研究院の賈康研究員は、住宅保有に対する課税は、不動産市場の需給双方に影響を与え、全体的には、市場の安定、投機抑制効果があるとした。また、「共同富裕」の推進や、3段階の分配機能(注4)の最適化に向けて重要な役割を果たすほか、中でも、所得分配の調整を通じた社会的公平性の確保に寄与するとの見方を示した。このほか、イノベーションの最前線に位置する示範(モデル)地域を先行的に試行対象とすることにより、他地域での実施や関連する改革の実施に向けた良いケーススタディになると述べた(「人民網」10月25日)。

また、中央財経大学財税学院の白彦鋒院長は、不動産市場は居住という民生上の問題であるだけでなく、経済発展や金融の安定にも関連し、不動産税の推進はマクロコントロールに向けた有益な試みだと評価した(「21世紀経済報道」10月27日)。

(注1)中国では土地は基本的に国有で、土地使用権を有償で取引することが一般的だ。詳細はジェトロウェブサイト「中国 外資に関する規制1.土地所有権、使用権についてPDFファイル(174KB)」を参照。

(注2)国務院は、試行計画の実行過程において、適時にその経験を総括するとともに、期間満了の6カ月前に全人代常務委員会に報告し、継続的な試行が必要な場合には、同委員会に関連意見を提出することができる、とされた。

(注3)2003年、第16期共産党中央委員会第3回全体会議で初めて住宅に対する課税が提起された。その後、2015年には、不動産税が全人代常務委員会の立法計画に組み入れられた。2018年の第13期全人代第1回全体会議では不動産税の立法を推進することが提起された(「澎湃新聞」10月26日)。

(注4)習近平国家主席は8月17日、共産党中央財経委員会を開催し、質の高い発展の中で「共同富裕」を促進し、「一次分配(市場による分配)」「二次分配(政府による税を利用した再分配)」「三次分配(企業などの寄付などによる自発的な再分配)」が協調し一体となった基礎的な制度を構築するとした。

(張敏)

(中国)

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