EU域内からの外国投資事前審査制度を2022年末まで延長

(スペイン)

マドリード発

2021年11月30日

スペイン政府は11月23日付勅令法で、新型コロナウイルス感染拡大直後の2020年3月から導入している外国投資への事前審査(スクリーニング)制度について、EU域内企業に対する適用期限を2022年12月31日まで延長した。

2022年中に外資規制の法的枠組み整備へ

同制度は「新型コロナ禍」で国内企業の株価や企業価値が低下する中、それに乗じた他国からの戦略的企業の買収を予防するために、政府による事前承認を義務付けたもの。対象となる業種・分野は重要インフラ(エネルギー、輸送、水、医療、通信・メディアなど)、重要技術と軍民両用技術、機密情報・個人情報管理など幅広い分野に及ぶ。

事前審査対象となる投資案件は、(1)EUと欧州自由貿易連合(EFTA)の域外の企業がスペイン国内の上場企業の株式10%以上を取得する場合、(2)EU/EFTA域内企業が、スペイン国内の上場企業の株式10%以上、または非上場企業の株式5億ユーロ以上を取得する場合。こうした客観的基準に加え、「経営に影響を及ぼす可能性がある場合」も対象となっている。今回、適用期限を延長したのは、このうちの(2)域内企業案件に対する事前審査で、2021年12月31日までとなっていた期限を1年延長した。(1)の域外企業に対する投資規制は当初から無期限で適用されている。

審査手続きに最長6カ月かかるも、投資は活発

外国投資の事前審査制度は施行細則が未整備なため、現在も審査基準の詳細や運用状況は公表されていない。報道や専門家によると、審査対象の定義が明確でないため、審査の要否を事前確認するだけで数週間かかっているという。また、大型の重要案件の場合、事前審査自体も所管官庁限りではなく閣議レベルの検討が必要となり、手続きに最長6カ月かかっている。ただし、これまでのところ、承認が拒否された投資案件はないとみられる。

閣議承認を要した外国投資のうち、2020年以降に発表されたものは、英米ファンドによる通信大手マスモビルの買収(2020年11月完了)や、中国長江三峡集団による太陽光発電所買収(2020年12月発表)、オリックスによる再生可能エネルギー事業者エラワン・エナジーの株式80%取得(2021年7月完了)など、域外企業による投資が目立った。

2021年には、オーストラリアのファンドIFMによる電力・ガス大手ナチュルジーの株式公開買い付け(10月完了)の審査が長引いていたものの、最終的に条件付きで承認された。ナチュルジーが公益企業であることから、IFMは同社のスペイン本社機能の維持、エネルギー移行投資の支援といった条件を受け入れる必要があった。その他、米ファンドによる廃棄物管理大手ウルバセルの買収〔10月に中国天楹(チャイナ・ティエンイン)より売却〕も閣議承認済みだ。

(伊藤裕規子)

(スペイン)

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