AMLO大統領、中銀の新総裁の指名変更、金融市場は一時混乱
(メキシコ)
メキシコ発
2021年11月30日
メキシコのアンドレス・マヌエル・ロペス・オブラドール(AMLO)大統領は11月24日の記者会見で、2021年末で任期が満了するアレハンドロ・ディアス・デ・レオン中央銀行総裁の後任として、当初発表していたアルトゥーロ・エレーラ前大蔵公債相(2021年6月11日記事参照)ではなく、ビクトリア・ロドリゲス・セハ大蔵公債省歳出担当次官を指名すると発表した。中銀次期総裁の指名を変更した理由について、AMLO大統領はメキシコの要職における女性のプレゼンスを拡大するためと説明しているが、経験や実績から経済界の評価が高いエレーラ前大蔵公債相を指名しないと決めた背景については、明らかになっていない。中銀総裁の就任には上院の承認が必要。
ロドリゲス氏は、モンテレイ工科大学(ITESM)で経済学学士号、メキシコ大学院大学(Colegio de México)で経済学修士号を取得したエコノミストで、2002~2018年までメキシコ市政府で主に財務局の要職に就き、2018年12月のAMLO政権発足後は連邦大蔵公債省で歳出計画を担当、現在は歳出担当次官を務める。AMLO大統領とは同氏がメキシコ市長(2000~2005年)だった時代から近い関係にある。上院が総裁就任を承認した場合、メキシコでは史上初となる女性の中銀総裁が誕生する。
メキシコ経営者連合会、上院に慎重な検討を要請
エレーラ前大蔵公債相が中銀総裁に指名されないことについては、同氏の11月23日付ツイッターで明らかになり、新たな候補指名に注目が集まっていたが、今回の発表はメキシコの金融市場に不安を与え、為替相場にも影響を及ぼした。ロドリゲス次官は経済学者であり、メキシコ市政府と連邦政府における財政分野の経験はあるものの、金融については経験が乏しいからだ。11月24日の為替相場はペソ安に動き、対ドル為替レート(インターバンクレート、48時間もの、終値)は前日終値よりも0.22ペソのドル高ペソ安となる1ドル=21.4472ペソまで下落した。
国立統計地理情報院(INEGI)が11月24日に発表した11月前半の消費者物価指数(IPC)によると、IPC前年同期比上昇率は7.05%となり、2001年4月前半以来となる20年ぶりの水準に達した。世界的な需給ギャップの拡大が影響し、インフレのコントロールが難しくなっている中、金融界での知名度が低いロドリゲス氏の総裁就任には、疑問の声を呈する識者が多い。メキシコ経営者連合会(COPARMEX)は11月24日付でプレスリリースを出し、中銀の独立性と自治は国の金融政策にとって根本的な要素と強調するとともに、インフレが高進している現状を挙げ、中銀の使命は通貨の購買力の維持(インフレの抑制)とし、その使命を果たすための人事について、上院が慎重な検討を行うことを要請している。
(中畑貴雄)
(メキシコ)
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