メキシコ大統領、大蔵公債相の交代を発表

(メキシコ)

メキシコ発

2021年06月11日

メキシコのアンドレス・マヌエル・ロペス・オブラドール(AMLO)大統領は6月9日、大蔵公債相の交代を発表した。中央銀行のアレハンドロ・ディアス・デ・レオン総裁の任期が2021年末で切れるため、アルトゥーロ・エレーラ現大蔵公債相を2022年1月からの中央銀行の総裁候補として指名する。エレーラ氏は、上院により承認されれば新総裁となる。大蔵公債相の後任としては、英国ケンブリッジ大学で経済学博士号を取得したエコノミストのロヘリオ・ラミレス・デ・ラ・オ氏が就任する。エレーラ現大蔵公債相は、イタリアで開催されるG20財務相・中央銀行総裁会合に出席することが決まっているため、その後、7月中旬の交代を予定している。新蔵相の就任は下院の承認が必要。

ラミレス氏は、メキシコ国立自治大学(UNAM)で経済学を学んだ後、英国ケンブリッジ大学で経済学博士号を取得している。国際貿易や産業連関、企業内貿易などについての研究を行っており、卒業後は自らが経営する民間シンクタンクで企業向けのアドバイザリー業務などに就いていた。2006年の選挙でAMLO氏が大統領候補として立候補した際、同氏は選挙対策チームの経済顧問を務めた。2012年の大統領選挙時には、AMLO氏が当選した場合に大蔵公債相のポストが約束されていた(2006年、2012年ともAMLO氏は落選)。AMLO大統領に近い存在だが、企業経営や国際経済に明るいため、経済界は今回の人事をおおむね歓迎している。AMLO大統領は2021年5月21日、現政権の政策に時折苦言を呈していたディアス・デ・レオン現中央銀行総裁の再任を否定し、「より社会的側面がある人物」を指名すると発表していたため、経済界からは中央銀行の独立性が侵害されることへの懸念が表明されていたが、今回、民間部門との間で良好な関係を維持していたエレーラ蔵相が総裁に指名されたため、CCE(企業家調整評議会)やCOPARMEX(メキシコ経営者連合会)も指名を支持する表明を行っている。

新蔵相の課題は税制改革

ラミレス新大蔵公債相の当面の課題は、2022年度予算と同時に2021年9月から国会で審議されるとみられる税制改革だ。AMLO政権下で2年続いたマイナス成長に伴う歳入減により、連邦の歳出予算や州政府への交付金の水準を維持するために、歳入安定化基金(FEIP)や州歳入安定化基金(FEIEF)に蓄えられていた資金が使われ、政権発足時点からそれぞれ95%、71%も減少している(「レフォルマ」紙6月10日)。AMLO政権は、汚職撲滅や緊縮財政を進めることで収支均衡を保ちつつ財源を確保してきたが、緊縮財政にも限界があり、余剰資金も枯渇してきているため、税収を増加させるための抜本的な税制改革を求める声が高まっている。

(中畑貴雄)

(メキシコ)

ビジネス短信 6be59b75363f039b