欧州産業連盟、急激な物価上昇や国際サプライチェーンの停滞を懸念

(EU)

ブリュッセル発

2021年11月12日

ビジネスヨーロッパ(欧州産業連盟)は11月8日、「秋季経済見通しPDFファイル(外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)」を発表し、EUの2021年と2022年の実質GDP成長率をそれぞれ4.8%、4.3%とした。ビジネスヨーロッパは、EU経済は引き続き力強く回復しているものの、急激な物価上昇や国際サプライチェーンの停滞が経済回復を鈍らせかねないとして懸念を示した。

欧州の経済回復は、当初はEUより早い回復を見せた米国や中国向けを中心とした輸出に大きく支えられていたが、現在はEU27カ国の小売り部門の9月の売上高が2019年の平均値を6%上回るなど、個人消費が回復を牽引している。EUの家計貯蓄率は新型コロナウイルス危機以前の12%から、2021年第1四半期(1~3月)には21%に上昇しており、物価上昇や新型コロナウイルス感染再拡大への懸念によって消費者信頼感が低下しない限り、今後もサービス部門などで需要の拡大が望めるとした。

国際サプライチェーンの停滞が欧州企業の生産に影響

一方で、欧州経済もまた、国際サプライチェーンの停滞の影響を受け始めている。新型コロナウイルス感染再拡大などに伴う中国の港湾施設や工場の閉鎖などに伴い、国際海上輸送に大幅な遅滞が発生し、海外で生産された欧州企業および消費者向けの製品の供給が大きく遅れるリスクが生じるなどしている。ビジネスヨーロッパによると、生産を抑制せざるを得ない理由として「原材料・備品の不足」を挙げた欧州企業は、2021年第3四半期(7~9月)で全体の39%に上り、2019年同期の9%と比較すると大幅に増加し、現在の物流の混乱が企業活動に大きな影響を与えていることが分かる。実際、半導体や原材料などの供給不足などにより、EUの8月の鉱工業生産指数は前月比で1.5%減となった。また、EUの9月のエネルギー価格指数は2020年1月と比較し7%も上昇するなど、物価上昇も起きている。ビジネスヨーロッパは、賃金にこうした物価上昇が十分に反映されなければ、短期的なインフレ圧力がより長期的なものとなる恐れがあるとした。

そのため、ビジネスヨーロッパは、(1)企業への支援政策を継続しつつ、中期的にはEU加盟国の財政規律を確保すること、(2)一時的な物価上昇が賃金と物価のスパイラル的な上昇を引き起こさないよう賃金の適正化を図ること、(3)加盟国による復興計画の完全な実施、(4)ワクチン接種率が低い加盟国を中心に接種の加速を支援といった政策の実施を提言した。

(滝澤祥子)

(EU)

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