EU理事会、高度技能労働者の受け入れ拡大に向けブルーカード制度を改正

(EU)

ブリュッセル発

2021年10月11日

EU理事会(閣僚理事会)は10月7日、高度な技能を有するEU域外からの移民労働者(以下、高度技能労働者)の受け入れを目的とする滞在・労働許可制度である「ブルーカード」制度の改正指令を採択外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますした。現行のブルーカード指令は2009年に施行されたもの。2014年には前欧州委員会が政策文書で、同指令の加盟国での実施について、制度上の欠陥が認められ、その結果、加盟国間で運用に差異が生じ、期待された成果が十分に上がっていないと評価して、2016年7月に改正案を発表していた。今回、5年越しで改正指令が正式に採択された。新指令はEU官報に掲載ののち20日後に施行され、加盟国(留保を付しているアイルランドおよびデンマークを除く)は施行から2年以内に必要な国内法令を整備する義務がある。

高度技能労働者の不足および域内の高齢化に対応

改正の背景には、EUが推進するデジタル化対応などで高度技能労働者のEU域内需要が増える一方で、域内の高齢化も要因となり必要な人材が域内で十分に確保できていないことがある。欧州議会の2021年7月の報告書によれば、移民受け入れに占める高度技能労働者の割合(2010年データ)はOECD平均の35.6%に対し、EUでは25.4%と低い水準にとどまる。現状では、ブルーカード制度を十分に活用しているといえる加盟国はドイツのみで、他の加盟国は主にそれぞれ独自の滞在・就労許可制度に基づいて高度技能労働者を受け入れている。EUとしては、ブルーカード制度の改正を通じて、域内の統一的な運用を確保し、高度技能労働者の域内での円滑な移動を保障することで、必要な人材の受け入れを促進したい意向だ。

改正指令では、申請を行う域外労働者は、必要な技能または資格の証明に加え、6カ月以上(現行指令では12カ月以上)の有効な雇用契約またはオファーの提示が求められることになり、労働者の立場からは要件の緩和となる。また、ブルーカード保持者は、最初に雇用された加盟国で12カ月以上(現行指令では18カ月以上)滞在・就労することで、別の加盟国での滞在・就労が可能となり、高度技能労働者が域内で移動しやすい環境を整える改正内容となっている。

ブルーカード取得に必要な給与水準は、現行では、雇用される加盟国での平均給与所得の150%以上(上限なし)となっているのに対し、改正指令では100%以上、160%以下に設定された。EU理事会は、改正内容は、加盟国独自の制度を利用する労働者とブルーカード保持者との条件の公平性に配慮したものと説明している。

(安田啓)

(EU)

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