専門家グループ、エネルギー価格高騰もグリーン・ディール推進支持

(EU)

ブリュッセル発

2021年10月22日

欧州委員会に対して独立した立場から科学的助言を行う主要科学アドバイザーグループ(GCSA)は10月20日、昨今のエネルギー価格の大幅な上昇に関して、低炭素エネルギーへの移行こそが長期的にはエネルギー価格の引き下げにつながるとの声明PDFファイル(外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)発表外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますした。

今回の声明でGCSAは、再生可能エネルギー価格は既にガスや石炭由来のエネルギー価格よりも下がってきており、再生可能エネルギーの占める割合が上昇したことで、2019年には電気の卸売価格の低下にもつながったとし、あらゆる市民への安定的なエネルギー供給で、風力や太陽光などの低炭素エネルギー源を重視すべきとの見解を示した。その上で、低炭素エネルギーの供給は需要に対して十分でなく、さらなる大規模投資やそうした投資へのインセンティブとなる炭素価格メカニズムなどの政策が必要だとした。

今回の声明は、欧州委が10月13日に発表したエネルギー価格高騰に対する対応策(2021年10月14日記事参照)をおおむね支持するものだ。一方で声明は、EUは2050年までにカーボンニュートラル(炭素中立)を目指していることから、今後も炭素価格が上昇するとしており、EUはこうした炭素価格の長期的な上昇を受け入れる政治的なコミットメントが必須だと強調。さらに、こうした低炭素エネルギーへの大規模投資や石炭などの高炭素エネルギー源からの脱却が短期的にエネルギー価格の高騰や不安定化につながることはあり得ると指摘した上で、低炭素エネルギーへの長期的な投資と並行して、エネルギー貧困への即座の補償策が必要不可欠だとした。

欧州理事会を前に、欧州委はグリーン・ディール推進をあらためて強調

欧州委のウルズラ・フォン・デア・ライエン委員長は10月21、22日に開催される欧州理事会(EU首脳会議)に先立って欧州議会で演説外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますし、13日に発表した対応案への支持を求めた。EU域内で消費されるガスの90%、石油の97%が域外からの輸入に依存しているとして、低炭素エネルギーへの移行を目指す欧州グリーン・ディールこそが、中長期的にはエネルギー価格の高騰への対策や、エネルギーの自給自足につながるとして、その重要性をあらためて強調。EU加盟国とともに、低炭素エネルギーへの投資を加速させる姿勢を示した。また、短期的には脆弱(ぜいじゃく)な家庭や中小企業への支援が優先課題とし、既に20の加盟国がエネルギー税の減税措置などを実施していることを明らかにした。

今回の欧州理事会では、エネルギー価格高騰への対策が議題に挙がっており、エネルギー貧困層への一時的な支援策だけでなく、欧州委の対応策でも言及したガス備蓄の共同調達の検討などの中長期的な対応に関する協議にも注目が集まっている。

(吉沼啓介)

(EU)

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