欧州委、早期承認が有望視される新型コロナ治療薬の候補発表

(EU)

ブリュッセル発

2021年10月27日

欧州委員会は10月22日、EUの医薬品規制当局である欧州医薬品庁(EMA)による早期承認が有望視される10件の治療薬候補を発表外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますした。今回の選定は、新型コロナウイルス感染症対策の治療薬の開発と共同調達に向けた戦略(2021年5月10日記事参照)の一環で、欧州委は治療薬の確保に向けた動きを加速させている。

今回の選定は、独立した専門家グループが開発状況や臨床試験結果、EMAの審査状況などを基に実施したものだ。EMAによる承認審査自体に直接影響を与えるものではないが、欧州委は今回選定の治療薬候補に対して、EMAによる早期承認に向けた支援を提供するとしており、このうちの数件は2021年内の承認が期待されている。

治療薬候補には、販売承認申請の前段階で早期承認に向けて実施される逐次審査中(ローリングレビュー)と、正式な販売承認に向けて承認申請中の計9件のうち7件が含まれている。欧州委が選定した治療薬候補を効用別に整理すると以下のとおり。

(1)抗ウイルス・モノクローナル抗体薬(感染初期の治療だけでなく、感染予防にも効果的)

  • スイス製薬大手ロシュと米国製薬大手リジェネロンの「ロナプリーブ」:販売承認申請中
  • 英国製薬大手グラクソ・スミスクラインと米ビール・バイオテクノロジーの「ソトロビマブ」:逐次審査中
  • 英製薬大手アストラゼネカの「AZD7442」:逐次審査中

(2)経口抗ウイルス薬(感染後早期の使用でウイルス増殖を防ぐ経口薬)

  • 米製薬大手メルクと米リッジバック・バイオセラピューティクスの「モルヌピラビル」:逐次審査中
  • 米製薬大手ファイザーの「PF-07321332」
  • ロシュの「AT-527」

(3)免疫調整薬(入院中の重症患者向けで、免疫システムの過剰な反応を抑える)

  • ロシュの「トシリズマブ」:販売承認申請中
  • スウェーデンのバイオ製薬スウェディッシュ・オーファン・バイオビトラムの「アナキンラ」:販売承認申請中
  • 米製薬大手イーライリリーの「バリシチニブ」:販売承認申請中
  • 米バイオ製薬ヒューマニゲンの「レンジルマブ」

新型コロナウイルス対策としてワクチン接種を引き続き最重要視

欧州委は治療薬の確保を急いでいるものの、ワクチン接種こそが新型コロナウイルス感染拡大を終わらせることができる最良の手段として、ワクチンを重視する立場を変えていない。EMAは、ワクチン接種完了者に対する3回目となるブースター接種に関して実施の緊急性はないとしているものの(2021年9月3日記事参照)、ファイザー・ドイツのビオンテックが開発したワクチンに対する勧告(2021年10月5日記事参照)に続く2例目として、米モデルナ製ワクチンに関してもブースター接種を認める勧告を10月25日に発表外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますした。また18日には、現在12歳以上となっているファイザー製ワクチンの接種対象年齢を5歳以上に引き下げるための審査外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますも開始している。

(吉沼啓介)

(EU)

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