欧州産業界、一般教書演説での保健・グリーン・デジタル分野の提案に期待と注文

(EU)

ブリュッセル発

2021年09月17日

欧州委員会のウルズラ・フォン・デア・ライエン委員長が9月15日に行った一般教書演説(2021年9月16日記事参照)について、欧州産業界からは演説で言及された主要政策への支持や期待、また注文が寄せられた(注)。

欧州製薬団体連合会(EFPIA)は、フォン・デア・ライエン委員長が「欧州保健緊急事態準備・対応局(European Health Emergency Preparedness and Response Authority:HERA)」の設立について言及したことを評価。HERAが将来的なリスクの把握から、研究開発の推進、加盟国および域外国・地域との連携まで、幅広い施策を網羅した「端から端まで(end-to-end)のアプローチ」を取るとしたことを支持し、将来のパンデミックに向けて、欧州がより備えを強化していることを保証する「重要な一歩」となると期待を示した。

情報通信技術(ICT)関連産業団体のデジタルヨーロッパは、フォン・デア・ライエン委員長は「デジタルは欧州の優先課題の達成で分野横断的な役割を果たすと理解している」と称賛し、「欧州チップ法案」の提案など半導体のEU域内供給の強化やデジタル分野での国際的なパートナーシップ構築を強化すると表明したことなどを評価。一方で、保健衛生分野でのデータスペースの設立についてより高い目標提示がなかったことや、依然としてデジタル化とグリーン化を別個の課題として扱い、グリーン化においてデジタルが重要な役割果たすことを見落としていると指摘した。

欧州機械・電気・電子・金属加工産業連盟(ORGALIME)は、フォン・デア・ライエン委員長が域内市場の重要性を強調したことを支持。産業界を重要なパートナーとして域内市場の強化に取り組み、特に市場監視の強化、欧州標準化システムの改善、テクノロジー業界のイノベーションに配慮した規制の基盤整備を優先課題として挙げた。また、5G(第5世代移動通信システム)網の整備の推進を訴えたほか、「欧州チップ法案」やサイバー攻撃への対策強化を目指す「サイバーレジリエンス法案」などデジタル分野での提案、グローバルサプライチェーンや公正な競争の確保を中心に据えた効果的なEU産業戦略の策定への言及に支持を示した。

欧州鉄鋼連盟(EUROFER)は、7月に発表された「欧州グリーン・ディール」の関連政策パッケージ(2021年7月15日記事参照)について言及し、欧州鉄鋼界のグリーン化のため、同パッケージを今後、審議する欧州議会やEU理事会(閣僚理事会)に対して、電力、水素などの低炭素エネルギーが十分確保できるようにすることや画期的なクリーン技術への投資に対する支援に加え、効果的なカーボンリーケージ(排出制限が緩やかな国への産業の流出)の防止策が必要だと訴えた。そして、「EUは欧州鉄鋼業界が脱炭素化分野のグローバルなリーダーになる機会を活用すべきだ」と、フォン・デア・ライエン委員長に対して、鉄鋼部門のグリーン化に関する同産業界との対話を呼び掛けた。

(注)各団体の声明は全て9月15日付。

(滝澤祥子)

(EU)

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