中国で拘束のカナダ人2人帰国も、加中関係回復には疑問視

(カナダ、中国)

トロント発

2021年09月28日

中国においてスパイ容疑で拘束されていたカナダ人、マイケル・コブリグ氏とマイケル・スパバー氏が9月25日に釈放され、約3年ぶりに帰国した。カナダのジャスティン・トルドー首相とマーク・ガルノー外務相は、2人をカルガリー空港で出迎え、難局と思われた事態の解決にカナダ国内の各種メディアが沸いた。

中国政府は、2人のカナダ人拘束について、2人が逮捕された2019年から一貫して、華為技術(ファーウェイ)の孟晩舟最高財務責任者(CFO)のカナダでの拘束とは無関係と主張し、今回の釈放も両人の健康上の理由によるものだとしているが、カナダでは報復的行為との見方が大勢だ。そして、同事件の解決がカナダと中国の早急な関係修復につながるとみる声は少ない。

中国外務省は9月27日の記者会見で、カナダは今回の事件から学ぶべきだとして、米国の要請により孟氏を拘束したカナダを「米国のために汚い仕事をすべきではない」と非難した。一方、ガルノー氏も同日、国連総会前の演説で「カナダはこの経験とこの教訓を決して忘れない。私たちは、どこで、どのような形であれ、恣意(しい)的な拘束の終結を求め続ける」と述べた。

元在中国大使のガイ・サン・ジャック氏は、カナダと中国が通常の関係に戻ることは「不可能」だとし、「最近の選挙運動中、自由党は(カナダ内の)中華系コミュニティに敵対することを望まなかったため、発言に慎重だったが、総選挙が終わり、2人のマイケルが戻ってきたことで、カナダが中国への新しいアプローチを明確にする時が来た」と述べた。トロント大学准教授で、中国の専門家であるリネット・オン氏は「中国は大国で、(気候変動や新型コロナウイルスの収束など)重要な問題について協力が必要だ」とした一方で、「カナダ人は2人の拘留を忘れることはなく、それは長期的な影響をもたらすだろう」と述べた(「グローブ・アンド・メール」紙9月26日)。

中国への強硬姿勢で知られるレオ・フーサコス上院議員は自身のSNS上で声明を発表し、トルドー首相に対して、ファーウェイの5G(第5世代移動通信システム)ネットワークからの除外、2022年北京冬季オリンピックのボイコットを求めるとともに、カナダは、中国製の安価な商品から脱却し、代わりに、より価値観の一致している国との貿易関係を追求しなければならない、と主張。さらに、「わが国の政府は、中国との関係を直ちに縮小し、カナダ人に対して中国への渡航を禁止し、現在中国に居住している場合には国外に退去するよう、確固たる警告を発するべきだ」という持論を示した。

オタワ大学大学院シニアフェローで国際関係専門家のマーガレット・クレイグ・ジョンストン氏は「私のように40年来の友人を中国に持つ人間であっても、もう中国へ行こうとは思わないし、中国政府関係者も信用することができない。中国の悪い面を見てしまい、自分を守るために今後は慎重にならざるを得ない。中国でのビジネスから撤退する企業もあるだろう」と語っている(CTVニュース9月27日)。

今回の事件は、カナダ側に痛い教訓として強烈に印象付けられたのは確かなようだ。

(江崎江里子)

(カナダ、中国)

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