サイード大統領、緊急事態における新たな特別措置を発表

(チュニジア)

パリ発

2021年09月29日

チュニジアのカイス・サイード大統領は9月22日、緊急事態における特別措置に新たな措置を加えた大統領令を発表した。

発端は全国的な反政府抗議デモ

チュニジアでは、大統領への権力集中を避けるため、2014年の憲法改正以来、首相が内政を担う。しかし、新型コロナウイルスの感染拡大と、それに伴う経済悪化への政府対応の遅れに対して国民の不満が爆発し、議会解散と首相退任を訴えるデモが発生していた。こうした状況を踏まえ、2021年7月25日に、サイード大統領は、緊急事態における大統領の特別措置を定めた憲法第80条を適用し、ヒシェム・ムシーシ前首相の解任、国民代表議会の30日間の活動停止、全議員の免責特権の剥奪を発表した(2021年7月28日記事参照)。8月23日には、これらの措置について無期限に延長することを大統領令によって決定している。そして今回、追加措置が発表された運びだ。

なお、今回の大統領令では、新たに以下を主要項目とする措置を加えることが発表された。

  1. 憲法の前文(一般原則)、権利と自由に関する第1章と第2章、さらに7月25日に公示された特別措置と矛盾しない全ての憲法の規定は引き続き有効とする。
  2. 法案の合憲性を審議するために設けられていた暫定機関を廃止する。
  3. 大統領は、大統領令によって組織される委員会の助力を得て、政治改革に関連する法律の修正案の作成に責任を負う。
  4. 立法文書は、大統領によって署名される法令の形で公布される。
  5. 大統領は、政府の長が議長を務める閣僚委員会の助力を得て行政権を行使する。

大統領への権力集中に対する批判の声

9月22日付のフランス「ルモンド」紙は、サイード大統領は今回の特別措置によって、2014年の憲法改正以降採用されている、大統領は外交と安全保障に関してのみ権限を有し、行政の長は首相とする「混合議会制」を「大統領制」へと移行させようとしていると指摘している。

新たな大統領令の発表を受け、「民主潮流党」「アル・ジョンフリ(共和党)」「エッタカトル(労働と自由のための民主フォーラム)」「アフィック・トゥーネス(チュニジアの地平線)」の4政党は共同声明を発表し、今回の大統領令は民主的な憲法を侵害するものだと強く批判した。また、国民代表議会議長でイスラム穏健派政党「アンナハダ」の党首ラシェッド・ガヌーシ氏も、フランス通信社AFPのインタビュー(9月23日付)で、今回の大統領令は1959年憲法への逆行で、2011年のジャスミン革命における国民の意思に反するものだと批判した。その上で、大統領個人への権力集中を阻止するための平和的闘争を呼び掛けている。

サイード大統領は2021年9月20日、2011年のジャスミン革命の発端となった市民暴動が起こったシディ・ブジッドを訪問した際、近く特別措置の延長と新首相の任命を行うと述べている。

(渡辺智子)

(チュニジア)

ビジネス短信 1da6b03e97a3763d