パウエル米FRB議長がジャクソンホールで講演、年内に量的金融緩和縮小の見通し
(米国)
ニューヨーク発
2021年08月30日
米国連邦準備制度理事会(FRB)のジェローム・パウエル議長は8月27日、ジャクソンホール会議(注)で講演し、「経済が予想どおり進展した場合、年内に資産購入ペースの縮小を始めるのが適当というのが私の考えだ」と述べ、年内の量的緩和縮小開始を示唆した。
講演でパウエル議長は、金融政策運営の目標である雇用の最大化と物価の安定に言及している。雇用については、非農業部門の雇用者数が過去3カ月平均で83万2,000人増加し、そのうち約80万人はサービス業が占め、失業率も新型コロナウイルスの感染拡大後で最も低い5.4%まで回復していることを強調した。また今後の展望についても、ワクチン接種の進行や学校の再開、失業手当給付加算の終了などにより、求職活動の制約が消えつつあることから、雇用のさらなる回復が見込めると述べている。一方、物価については、急激な上昇傾向が一時的な可能性を示唆する要素がみられると述べている。その1つとして、新型コロナウイルスの影響を強く受けた中古車といった耐久消費財の価格上昇が穏やかになっている点を挙げ、それらの物価上昇が今後もインフレ全体の要因となるとは考えにくいと述べた。
これらの状況を踏まえ、パウエル議長は、雇用の最大化と物価の安定という2つの目標に「さらなる著しい進展」がみられるとしている。また、7月の連邦公開市場委員会(FOMC)の時点で、経済が広範囲に回復すれば2021年中に資産購入ペースを減速させ始めることが適切だという、他の多くの参加者と同様の考えに立っていたとし、今回の示唆がこれまでのコンセンサスに基づくものであることを強調している。一方で、デルタ株の感染拡大が懸念事項で引き続き状況を注視するとともに、今後の資産購入の減額の時期や速度が直接的に利上げの時期を示唆するものではないと述べた。
7月のFOMCの議事録では、2021年内の資産購入縮小が適当とする意見が大宗であることが既に明らかとなっていたことなどから、市場は年内にFRBが資産購入縮小を開始することを織り込んでいたのに加え、パウエル議長が資産購入縮小と政策金利の利上げを切り分けることを強調したことから、早期の政策金利引き上げを意図するものではないという安心感が広がり、8月27日のNYダウ工業株30種平均の終値は前日比242ドル68セント高の3万5,455ドル80セントと大幅に上昇した。
次の焦点は資産購入縮小の規模や開始時期で、その正式な発表時期に注目が集まっている。FRBが重視する雇用の回復については、9月3日に公表される雇用統計の数値が直近の判断指標となる。ナショナル・セキュリティーズのチーフストラテジストのアート・ホーガン氏は「FRBは9月のFOMCでテーパリング(資産購入縮小)を発表し、11月に着手すると予想している」と述べている(ロイター8月27日)。
(注)ジャクソンホール会議は、毎年夏に開かれる、カンザスシティー地区連銀主催の経済政策シンポジウムだ。例年はワイオミング州ジャクソンホールで開かれ、各国の中央銀行総裁やエコノミストらが参加するが(2019年8月29日記事参照)、2021年は新型コロナウイルスの感染拡大により、2020年に引き続きオンライン開催となった。各国の中央銀行総裁が金融政策の方向性を示唆する場として、しばしば注目されてきた。2020年の会議ではパウエル議長が、FRBの目標の1つであるインフレ率2%の達成について、一時的ではなく、一定期間の平均値での2%達成を目指すことを表明し、物価目標を事実上変更している。
(宮野慶太)
(米国)
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