欧州委、自動車排出ガス制御装置の開発でカルテルを認定
(EU)
ブリュッセル発
2021年07月09日
欧州委員会は7月8日、ドイツのダイムラー、BMW、フォルクスワーゲン(VW)グループ(同グループの中で、VW、アウディ、ポルシェの3社)の自動車5社による排出ガス浄化装置の開発におけるカルテルの存在を認定し、総額8億7,519万ユーロの制裁金賦課を決定したと発表した。
5社は2009年6月から2014年10月にわたり、ディーゼルエンジンの排出ガスから有害な窒素酸化物を削減するために尿素水を注入する制御技術「SCRシステム」の開発において、尿素水タンクの容量をはじめとする仕様で合意を形成し、また、消費される尿素量の平均値などに関する情報交換を行ってきた。その間、法令上に定められた窒素酸化物の排出基準値よりも優れた浄化性能の開発が技術的には可能だったにもかかわらず、談合を通じて競争が抑制されて各社は開発を怠ったとし、競争法違反となる協調的行為、すなわちカルテルが存在すると判断された。
本件は、ディーゼルエンジンの排出性能試験における不正に関するものではなく、ディーゼルエンジンのSCRシステム開発協力におけるカルテル行為に対する違反認定だ。5社はいずれも、カルテルへの関与を認め、今回、和解手続きによる解決を受け入れた。
技術開発におけるカルテルの認定はEU初
通常、カルテルは価格操作や数量制限、市場分割といった取引制限行為が対象だが、今回、欧州委はEUでは初めて、こうした価格形成や販売数量に直接影響する要素ではなく、技術開発そのものにおける談合行為だけでカルテルに該当すると認定した点に特徴がある。
欧州委のマルグレーテ・ベスタエアー上級副委員長(欧州デジタル化対応総括・競争政策担当)は「自動車排出ガスの制御技術における競争とイノベーションは、欧州グリーン・ディールの野心的目標を達成するために不可欠」とし、今回、競争法の執行を通じて、EU市場の効率性と公平性、企業のイノベーション創出が確保され、欧州グリーン・ディールの推進に貢献できることが示されたと述べた。
欧州委は、EU競争法が企業間の研究開発や商品開発における協力そのものを妨げるものではないことを強調している。技術や資源を動員して、より優れた技術を開発し、市場への普及を進めるなど、競争促進的な協力はむしろ奨励されるものだとした。今回の場合、技術協力における初のカルテル認定事例であることから、欧州委は対象となった自動車5社に対して、競争法上、問題のない技術協力の在り方に関するガイダンスを提供したと説明した。
なお、ダイムラーとVWグループは、欧州委に情報提供する見返りに制裁金の減免を受けることができるリニエンシー制度の適用を受け、最初に通報したダイムラーは制裁金ゼロ、欧州委の調査に協力したVWグループは45%の減額対象となった。また本件では、欧州委による事案処理を迅速化させる和解手続きが採用され、同手続きを受け入れたことで各社10%の減額が適用された。その結果、VWグループには制裁金5億236万ユーロ、BMWは3億7,283万ユーロがそれぞれ科された。
(安田啓)
(EU)
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