米国西部でバッテリーや燃料電池を活用した航空機開発が進む

(米国)

ロサンゼルス発

2021年07月14日

バッテリー式の航空機を開発するエビエーション・エアクラフト(Eviation Aircraft、以下、エビエーション、注1)は7月1日、米国西部ワシントン州シアトル近郊の開発拠点で、通勤用航空機「アリス(Alice)」を公開した。同機は9人乗りで、440マイル(約815キロメートル、注2)を飛行することが可能。新型コロナウイルスの影響により1年遅延したが、2021年後半に試験飛行を開始する予定だ。連邦航空局による審査後、2024年のサービス開始を目指している。

アリスの機体は複合材により軽量化され、モーターは既にカナダで飛行実績のある同社の米国関連会社マグニエックス(magniX)が提供する。エビエーションによると、アリスの最大のメリットは、一般的にエンジンよりもコストが安いモーターを採用することにより、メンテナンスコストが低減し、燃料代が下がる点にあるという。特に、燃料代は20分の1弱になるとしている。また、バッテリーは着脱が可能なため、今後バッテリーの性能が向上すれば、航続距離を延ばすことができるとしている。

同じく西部のカリフォルニア州では、燃料電池航空機の開発が進んでいる。

同州ホリスターと英国に拠点を持つゼロアビア(ZeroAvia)は既に小型航空機を使った試験飛行を行っている。同機はプロペラの後方に燃料電池を搭載し、水素タンク(注3)は翼の中に格納する。同社は、英国政府の支援を受けて、2020年9月に6人乗りの燃料電池航空機の試験飛行に成功した。同年12月には19人乗りの航空機〔航続距離約350マイル(注2)〕の開発に着手すると発表し、2023年早期の飛行を視野に入れている。同社の燃料電池は、スウェーデンのパワーセル(PowerCell)製で、パワートレイン(注4)全体の出力は600キロワットになるという。ゼロアビアは、このパワートレインの導入により、燃料費と機体維持費を75%引き下げることができ、その結果、輸送コストを約半分に低減できるとしている。

ロサンゼルス市に拠点を持つユニバーサル・ハイドロジェン(Universal Hydrogen、注5)は、モジュール化した水素タンクを開発し、さまざまな航空機への導入を目指している。同社は航空機開発にも乗り出しており、2025年までに座席数50以上の航空機を開発することを予定している(「テック・クランチ」4月22日)。水素と燃料電池システムは米国プラグ・パワー(Plug Power)から、モーターはマグニエックスからそれぞれ調達する。2021年4月にはシリーズAとして、2,050万ドルの資金調達を行っており、投資家には日本から双日とトヨタAIベンチャーズ(現・トヨタベンチャーズ)が参画した。

(注1)イスラエル発のスタートアップで、米国シアトルに本社を移している。

(注2)ここでのマイルはカイリ(ノーティカル・マイル、1カイリ=約1.85キロメートル)を指す。

(注3)一般的に、水素はバッテリーに比べて、重量エネルギー密度が高く、小型軽量化が可能なことにメリットがある。一方、航空機の離陸時に必要となる大量のエネルギーを生み出すために、燃料電池を大型化するか、パワートレインをバッテリーにより補強する必要がある。また、燃料電池から放出される熱をいかに処理するかといった点に課題がある。

(注4)動力源から作られた回転力を駆動輪へと伝える役割を担っている装置類。

(注5)欧州航空機大手のエアバスと米国航空宇宙部品大手で燃料電池開発も行っているユナイテッド・テクノロジーズ〔United Technologies、現レイセオン・テクノロジーズ(Raytheon Technologies)〕の最高技術責任者(CTO)も務めたポール・エレメンコ氏が中心となって2020年に創業した。

(佐伯徳彦)

(米国)

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