北米3カ国の通商閣僚、USMCA発効1年の成果強調

(米国、メキシコ、カナダ)

ニューヨーク発

2021年07月02日

米国のシンクタンク、ウィルソン・センターは6月30日、米国・メキシコ・カナダ協定(USMCA)の2020年7月1日の発効から1周年を迎えるに当たり、3カ国の通商閣僚を招いたオンラインセミナーを開催した。閣僚らは、新型コロナウイルスのパンデミックが発生した中、USMCAは北米3カ国が協力してさまざまな挑戦に立ち向かう土台を築いたと、その成果を肯定した。

米国のキャサリン・タイ通商代表部(USTR)代表は、USMCAが米国内の全ての利害関係者から圧倒的な支持を得て発効に至った点を強調し、貿易協定の新たなモデルなったと指摘した。USMCAの特徴として、これまでの貿易協定の中で最も強い労働、環境基準を導入、労働問題に特化した執行メカニズムを創設、医薬品へのアクセスを改善するために知的財産権の条項を変更したことを挙げている。USMCAの次の課題としては、北米3カ国で強制労働問題について協力することだとした。バイデン政権は「労働者中心の通商政策」を掲げており、最近も中国・新疆ウイグル自治区での強制労働の疑いがある企業からの輸入差し止めを発表するなど(2021年6月25日記事参照)、労働面での通商関連法の執行を強化している。タイ代表は「この重要な経済的かつ道徳的問題に対して協働していくことは世界に対して強いメッセージを送る」と強調した。

メキシコのタティアナ・クルティエール経済相は、USMCAは3カ国が新たな挑戦に協力して取り組むメカニズムだと評価した。パンデミックの影響がある中、USMCAが経済の開放性と透明性を提供したことで、メキシコは2020年の投資受入額で世界第9位になった、とその意義を強調した。また、USMCA第23条ではメキシコが労働法制を改定することが求められているが、経営者・労働者も含めて協定の適正な実施に向けて準備を進めているとした。

カナダのメアリー・エング中小企業・輸出振興・国際貿易相は、パンデミックを受けてサプライチェーンの重要性が認識されたと指摘した上で、USMCA(カナダではCUSMA)は3カ国の通商ルールを現代化したことで、域内に良質な雇用・投資をもたらすとした。一例として自動車産業を挙げ、「協定の下で協力することで、われわれは北米でのゼロエミッション自動車の生産を促し、3カ国がクリーンエネルギー自動車市場における世界的なリーダーになることを後押ししている」と域内産業の振興に期待を示した。3カ国間では既にUSMCAの紛争解決手続きを利用する動きが出ているが(注)、エング氏は、ぶつかり合うことは成功への近道だと楽観的な見方を示した。

(注)これまでの動きは次のとおり。

  • 米国がメキシコ国内にあるゼネラルモーターズ(GM)工場での労働権侵害の疑いに関して、事実確認を要請(2021年5月14日記事参照)。
  • 米国がカナダの乳製品輸入の関税割当制度の運用に関して、協定違反としてパネル設置を要請(2021年5月27日記事参照)。
  • 米国がメキシコ内の自動車部品メーカー、トリドネックスの工場での労働権侵害の疑いに関して、事実確認を要請(2021年6月21日記事参照)。

(磯部真一)

(米国、メキシコ、カナダ)

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