スーナック財務相、金融サービス分野で中国重視の見解示す

(英国、EU、中国)

ロンドン発

2021年07月13日

英国のリシ・スーナック財務相は7月1日、毎年恒例のロンドン市長官邸「マンション・ハウス」で演説外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますし、EU離脱(ブレグジット)後の英国の金融サービス分野のビジョンを提示。EUや米国、中国などの他国との関係のほか、グリーンファイナンスや自国の優位性強化に向けた規制面の抜本的な改革について語った。

EUとの関係についてスーナック財務相は、英国は金融サービス分野の同等性認定の獲得を目指してきたが、EUとの交渉(2021年4月1日記事参照)が行き詰まっていることに言及。しかし、英国には世界有数の厳格な規制・制度が既にあり、今後も強化するため、EUへのアクセスが否定されることはないとして、引き続きEUへサービスを提供し続けることに意欲を示した。

財務相はまた、最も重要な2国間のパートナーとして米国を挙げ、規制協力を深めたいとの意向を提示。中国については、金融サービス市場の総資産価値が40兆ポンド(約6,120兆円、1ポンド=約153円)とされる同国の重要性を強調。双方の価値観の相違や安全保障上の懸念などを認識しつつも、これらに妥協せずに中国と互恵的な関係を築く必要があるとの考えを示した。6月末にはシンガポールと金融サービス分野の関係強化に向けた協力合意を発表するなど(2021年7月6日記事参照)、アジア太平洋地域への関心を高めている。

上場規則緩和などの意見公募開始

規制面では、ブレグジットにより独自規制の自由度が大きく拡大したことを受け、政府は早々に活発な動きを見せている。スーナック財務相は演説で、同日に公表した「ホールセール・マーケット・レビュー外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます」(注1)の中で、目論見書(注2)関連制度の抜本的な見直しを含む第三者評価レポート(2021年3月発表、2021年3月16日記事参照)の提案の実行や、保険セクターの健全性規制の見直しを図るとしている。金融行為監督機構(FCA)も7月5日、英国の株式上場規則の緩和案外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますを公表。最低浮動株比率を25%から10%に引き下げることや、「デュアル・クラス株式(議決権種類株式)」発行企業のロンドン証券取引所(LSE)プレミアム市場(注3)での上場を一定の条件下で解禁することなどを目指している。これらの変更案は、9月までの意見公募を経て最終決定する。

さらに、グリーンファイナンス分野について、スーナック財務相は演説で、2021年9月に予定される個人向けのグリーンボンド(環境債)の発行や気候関連財務情報開示の義務化など、世界の牽引役としての英国の地位をあらためて確認した。2021年11月の国連気候変動枠組み条約第26回締約国会議(COP26)の開催国として、意気込みを示した。

(注1)ホールセール・マーケットとは、企業や公的機関、金融機関などが資金調達などを行う市場。

(注2)有価証券の販売に際して発行者や証券の情報を説明する文書。

(注3)株式発行企業に対し、上場に当たって通常より厳格な条件が課される市場。現状では、取締役や創業者が上場後も経営支配権を維持できるようにするためデュアル・クラス株式を発行した企業は、プレミアム市場への上場が認められていない。

(尾崎翔太)

(英国、EU、中国)

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