ピニェラ大統領、最後の教書演説で経済回復や新型コロナなど5つの課題に言及

(チリ)

サンティアゴ発

2021年06月08日

チリのセバスティアン・ピニェラ大統領は6月1日、バルパライソにある国会で任期最後の4度目となる教書演説を行った。新型コロナウイルスまん延防止の理由から、出席は一部の閣僚や国会議員に限られた。演説の冒頭では、民主主義の回復を歴代の大統領らの功績とともに振り返り、チリの進歩をたたえた。続いて、自身の就任から3年がたち、履行されたコミットメントとして以下の内容を挙げた。

  • 子供ファースト:未成年者庁(SENAME)に代わる新たな庁(Servicio Mejor Niñez)の創設(2021年10月の予定)と、青少年の社会復帰を目的とした庁(Servicio de Reinserción Social Juvenil)の創設(設置法案は下院通過)
  • 男女平等:女性の再婚禁止期間270日の撤廃、産後休暇を3カ月から6カ月へ延長
  • 教育:5歳児教育(El Kínder)を無償・義務教育化する法案の推進、第1次ピニェラ政権時に始まった中等教育施設の増設プロジェクトを推進(60校から320校まで増加)
  • 年金改革:75歳以上の年金受給者の受給額を50%改善、80万人の年金受給者(特に中産階級や女性)の年金受給額を改善する法案の推進(下院通過)
  • 移民:新移民法の施行により不法入国者や犯罪歴のある移民の入国を統制、国軍の協力により特に北部国境付近における不法入国、麻薬密売や武器密輸入などの組織犯罪を防止するための国境警備の強化
  • 先住民:先住民が多いアラウカニア地方に3年間で新たに10の病院、21のヘルスケアセンター(CESFAM)、23の中等教育施設を建設、制憲議会議員に17人の先住民枠を設置、先住民の日を新たに祝日として設ける法案の推進(国会で審議中)
  • 健康:公的保険(FONASA)の抜本的な改革を推進、民間保険(ISAPRE)における女性差別の撤廃、2,700にのぼる医薬品価格の引き下げ

そして、新たに次の政策を発表した。

  • 社会的危機への対応:人権侵害専門の検察庁の創設、国際基準に基づくデモ行進の自由を定めた新法案の提出
  • 公共秩序の近代化と国民の安全性の向上:警察や治安維持部隊の近代化、内務省とは別に公共秩序を守る専門の省として公安省を創設、サイバー犯罪防止のためのサイバーセキュリティ庁の創設
  • 同性婚を認める法案を推進
  • アラウカニア地方:優先的な5G(第5世代移動通信システム)ネットワークの敷設によりデジタル接続を改善、鉄道の伸長、公共交通に電気バスを導入など
  • 新型コロナに立ち向かうため20億ドルの特別健康基金の設立法案の提出
  • 社会保障:新たな家庭収入保護(IFE Universal)により新型コロナウイルスの影響に苦しむ約1,500万人に補助金支給、中小企業への補助金支給

加えて、国が直面する課題として、急速な高齢化、気候変動、デジタル革命を挙げ、残りの任期で取り組むべき重要課題として、新型コロナウイルスのパンデミックに立ち向かうこと、家庭や中小企業の社会的支援、雇用回復と経済の再活性化の促進、公共秩序や国民の安全強化、新憲法制定に係る全てのプロセスを安全で公平に実行すること、の5つを挙げた。

(岡戸美澪)

(チリ)

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