海外アクセラレーターが見た日本のイノベーション・エコシステム、ジェトロが座談会

(カナダ、米国、日本)

トロント発

2021年05月10日

ジェトロは4月21日、北米最大級のテックカンファレンス「コリジョン2021」(開催期間:4月20~22日)で、日本のイノベーション・エコシステムや日本発スタートアップの魅力を紹介し、日本市場への関心を高めることを目的としたオンライン座談会を開催した。カナダ国内や米国をはじめ、世界10カ国以上から約350人が視聴した。

座談会ではまず、近年相次いで日本に進出している海外のアクセラレーターが日本市場をどのように見ているのかについて議論が行われた。米国発のアクセラレーター、プラグ・アンド・プレイ・ジャパンのフィリップ・ヴィンセント代表取締役は「市場は大きいものの、イノベーション・エコシステムの歴史は浅く、伸びしろがある」と、日本の持つ潜在性を評価した。また、ここ数年、スタートアップと大手企業や地方自治体、学術機関との協業が開始されるなど、オープンイノベーションへ移行しつつあると述べた。米国ボストン地域を代表するイノベーション・コミュニティーのケンブリッジ・イノベーション・センター(CIC)の日本法人、CICジャパンの名倉勝ディレクターは「日本の大企業は基本的に製品開発を全て自社で賄おうとする傾向があり、スタートアップとのつながりが海外に比べて薄い。スタートップを集め、企業間の壁を壊し、エコシステムの構築につなげるのが海外アクセラレーターやCICのようなイノベーションセンターの役目」と自社の存在意義を語った。欧州発アクセラレーターのレインメーキング・イノベーション・ジャパンのジョシュア・フラネリー戦略アドバイザーは「日本でも近年、スタートアップ支援を行うサービスプロバイダーが充実してきたのは素晴らしいこと。ただ、(1)ビジネスモデルの構築ノウハウ、(2)テクノロジーを理解する力、(3)外国人とともに働ける言語能力の3つを持ち合わせた組織はまだ少なく、われわれ海外アクセラレーターが日本企業と海外の橋渡し役を担える」と述べた。

座談会では、企業の視点から日本でのビジネスについての議論も展開した。京都発の人工知能(AI)関連スタートアップ、ハカルスのエイドリアン・ソスナ・バイスプレジデントは「市場参入の壁は高いが、一度入れば継続的な売り上げが見込める。トヨタのような大手企業と提携すれば、その企業に伴って世界市場へ進出できる」と紹介した。カナダのAIソフトウエア企業イナゴの創業者で、日本で起業し大手企業との協業経験も持つロン・ディカールアントニオ最高経営責任者(CEO)は「要求の厳しい日本の消費者向けに日本で製品を開発するのは、製品の完成度を高めることにつながる。その技術が本当に良いものならば、協業先企業から多大な支援が得られ、結果的に全世界で通用する製品を開発できることも日本で起業する意義だ」とコメントした。また、日本での女性の社会進出について視聴者から聞かれると、「かつて男女の待遇に格差があった影響はある」としながらも、「日本には非常に優秀な女性人材が宝のように存在しており、スタートアップにとっては大きなアドバンテージといえる」と指摘した。

写真 座談会で日本のイノベーション・エコシステムについて語る登壇者〔上段中央から右回りに、イナゴのディカールアントニオ氏、CICジャパンの名倉氏、ハカルスのソスナ氏、レインメーキング・イノベーション・ジャパンのフラネリー氏、プラグ・アンド・プレイ・ジャパンのヴィンセント氏、ジェトロ・トロント事務所のタイソン・ガービー・アソシエイト・ディレクター(モデレーター)〕(ジェトロ撮影)

座談会で日本のイノベーション・エコシステムについて語る登壇者〔上段中央から右回りに、イナゴのディカールアントニオ氏、CICジャパンの名倉氏、ハカルスのソスナ氏、レインメーキング・イノベーション・ジャパンのフラネリー氏、プラグ・アンド・プレイ・ジャパンのヴィンセント氏、ジェトロ・トロント事務所のタイソン・ガービー・アソシエイト・ディレクター(モデレーター)〕(ジェトロ撮影)

座談会終了後、ジェトロが支援する日本のスタートアップ6社(アジラ外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますPJPアイ外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますビス外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますプラスマン外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますトリプル・ダブリュー・ジャパン外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますゼンポート外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)の紹介を行い、セッションは終了した。コリジョン主催者は2022年にテックカンファレンス「ウェブサミット」の東京での初開催を計画している。座談会のオンラインチャット欄にも「もっと日本について学びたい」「来年の(ウェブサミットの)東京開催が楽しみだ」といったコメントが寄せられ、座談会を契機としてイノベーションハブとしての日本の認知度が北米でさらに広まることが期待される。

(江崎江里子、飯田洋子)

(カナダ、米国、日本)

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