鉄道運営改革案を発表、公的機関新設でサービス向上目指す

(英国)

ロンドン発

2021年05月28日

英国政府は5月19日、グレートブリテン島の鉄道事業の改革案(白書)PDFファイル(外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)を発表した。運賃や時刻表の設定、財務管理、インフラや鉄道網の監督などを担う公的機関「グレート・ブリティッシュ・レールウエー(GBR)」を2023年に新設し、鉄道サービスの向上を目指す。鉄道民営化を果たした1990年代半ば以降、最大規模の改革となる。

英国の鉄道では民営化以降、上下分離方式(注)という経営手法が取られてきた。ここでいう「上」とは、運輸省から地域の路線ごとに運営権(フランチャイズ)を応札した民間企業(TOC)が事業を運営することを指す。2017年8月には、三井物産と東日本旅客鉄道がアベリオUKとコンソーシアムを組成し、ウェストミッドランズ旅客鉄道事業の運営権を応札した。

しかし、従来の制度は複雑で、企業の参入障壁が高いという問題が存在していた。また、5月20日付「フィナンシャル・タイムズ」紙によると、細分化された構造がコスト増を誘発し、運行や修理にも支障が出ていた。加えて、直近では新型コロナウイルス感染拡大に伴って鉄道利用客が減少しTOCの経営悪化が見込まれたため、運輸省とTOCは2020年3月に「緊急事態措置協定(EMA)」を締結外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますし、フランチャイズ制度を一時凍結して収益とコストのリスクを政府に移転した。その後、9月には「緊急事態回復措置協定(ERMA)」に更新外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますし、2022年3月までに従来制度を廃止して、質の高い鉄道サービスを目指すことを決定していた。

GBR新設後はフランチャイズ制度を採用せず、民間事業者はGBRが設定した運賃や時刻表に基づいてサービスを提供する。

テレワーク増に対応した定期券なども導入へ

鉄道改革により、新型コロナウイルスで大きく変化した社会に適合するサービスも展開していく。テレワークの増加で出勤日数が減少した人向けに、28日間で8日間だけ鉄道を利用できる定期券の導入を今夏に予定。また、カードもしくはスマートフォンでタッチするだけの非接触乗車券「Pay As You Go」の対象地域の拡大や、デジタルチケットなどの非接触サービスを拡大する。他方、現在導入しているオフピーク運賃については今後も維持していく方針だ。

今回の発表に合わせ、ボリス・ジョンソン首相は「あまりにも長い間、利用客は相応のサービスを受けられていなかった」と述べる一方、「今回の改革により、政府は国が誇れる鉄道システムの構築を実現する」とし、英国の鉄道再生に意気込みを見せている。

(注)インフラ経営で、上部(運営)と下部(インフラ)の管理を会計も独立した別の組織が行う方式。

(尾崎翔太)

(英国)

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