中間選挙を控え、与党内圧力で債務再編交渉の不透明感増す

(アルゼンチン)

ブエノスアイレス発

2021年05月28日

アルゼンチンのアルベルト・フェルナンデス大統領は、債務再編交渉のため5月9日から14日までの日程で欧州を訪問した。しかし国内では、与党内で債権債務交渉について意見が割れ、債務再編交渉の先行きは不透明になっている。例えば4月、グスマン経済相は、歳出削減を目的とした補助金削減をめぐり、同省のフェデリコ・バスアルド電力担当次官に辞職を求めたが、同次官はクリスティーナ・フェルナンデス副大統領の後ろ盾により辞職しなかった。グスマン経済相は債務再編交渉に向けて補助金など歳出の削減を進めているが、クリスティーナ・フェルナンデス副大統領に近いグループはこれに反対しているためだ。

さらに、4月下旬には、クリスティーナ・フェルナンデス副大統領に近い上院議員らが、IMFから新規配分が予定されている43億5,000万ドルの特別引出権(SDR)について、これをIMFへの返済に充てるのではなく、国内の新型コロナウイルス関連対策費に充てることを求める宣言を採択した。この宣言に法定拘束力はないものの、グスマン経済相に圧力をかけた格好となった。

政権内のこうした動きについて、ゲーリー・ライスIMFコミュニケーション局長は5月6日、政権内の動きについて臆測はしないと前置きしつつ「われわれはグスマン経済相と議論に深く関わっており、彼はその議論におけるわれわれのパートナーだ」と述べ、グスマン経済相の立場を支持した。

しかし、5月25日には再び、クリスティーナ・フェルナンデス副大統領に近い国会議員や識者らが、「5月25日の布告」(Proclama del 25 de Mayo)と題した対外債務の支払いに関する7点の要求を現政権へ提案した(現地紙「クラリン」電子版5月25日、添付資料参照)。

11月には、上院の24議席(72議席中)、下院の127議席(257議席中)を改選する中間選挙が控えており、国内では、国民受けしない条件ではIMFやパリクラブと合意できないと考えから、IMF、パリクラブとの債務再編交渉を行うグスマン経済相や、同相を支持するフェルナンデス大統領への風当たりが強くなっている。なお、パリクラブには、救済措置の条件として「IMFの融資条件を受け入れ、それを着実に実行することを要求する」というルールがあるため、IMFとの債務再編合意がまずは求められている。IMFとの債務再編合意は11月の中間選挙後というのがメインシナリオとされているため、パリクラブにはIMFとの合意まで返済を猶予してもらう可能性がある。5月末の返済期限から60日後に、パリクラブはデフォルトを宣言することができるが、仮にデフォルトとなれば、アルゼンチンにとっては10度目のデフォルトになり、国際金融市場での信用力はさらに低下する。

IMFとの交渉にはなお時間がかかる見通しだが、与党内での意見の相違や力関係の変化は、交渉の先行きを不透明なものにしている。

(西澤裕介)

(アルゼンチン)

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