菅首相、ポスト・コロナの国際秩序づくりを日本が主導、米CSISで講演

(米国、日本、北朝鮮、中国)

米州課

2021年04月20日

菅義偉首相は4月16日、ワシントンでの日米首脳会談後に、米シンクタンクの戦略国際問題研究所(CSIS)のオンラインで講演外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますを行い、日本外交の基軸としての日米同盟や、ポスト・コロナの国際秩序づくりについて、自身の考えを示した。

菅首相はインド太平洋地域の現状について、「中国の台頭に伴うパワーバランスの変化や、新型コロナウイルス対応の中で高まった自国中心主義などとも相まって、不確実性が一層増大しているのが現実」と指摘し、地域の安全保障環境は一層厳しいものになっていると述べた。

その上で、北朝鮮が3月下旬に再び弾道ミサイルを発射したことに言及し、「われわれは、北朝鮮の全ての大量破壊兵器とあらゆる射程の弾道ミサイルの、いわゆるCVID(完全かつ検証可能、不可逆的な廃棄)を粘り強く追求していかなくてはならない」と述べ、今後とも「日米、日米韓の3カ国で緊密に連携し、関連する安保理決議の完全な履行を進め、北朝鮮の非核化を目指していく」との方針を示した。さらに、菅政権の最重要課題と位置付け、重大な人権問題である拉致問題については、「条件を付けずに金正恩委員長と会う用意がある」と強調した。

北朝鮮問題の解決のカギを握るのは中国だが、その中国が「影響力を急速に高め、東シナ海・南シナ海などにおける一方的な現状変更の試みを継続している」と指摘した。菅首相は主権に関する事項や民主主義、人権、法の支配などの普遍的価値について、「譲歩する考えはない」と述べ、「日本として、主張すべき点はしっかり主張し、中国側の具体的な行動を強く求めていく」と強調した。その上で、中国との安定的で建設的な関係をしっかりと構築していくことと、米国をはじめとする同志国ともよく連携することが自らの基本的な考えだとした。また、新疆ウイグル自治区や香港などの人権状況についても、「しっかりと声を上げつつ、国際社会と連携して具体的な行動を求めていく」と述べた。

日米同盟については、「長年にわたる日米双方の努力によって、かつてなく盤石」と述べながらも、「われわれを取り巻く情勢は、日米双方に一層の努力を求めている」と指摘した。菅首相は「この日米同盟をさらなる高みに引き上げていくことが私の責務」との考えを示すとともに、「新型コロナ対策、グリーン成長、イノベーション・科学技術、経済安全保障の確保といった課題でも、日米の協力をしっかりと前に進めていきたい」と抱負を語った。

日本の外交戦略では、日米同盟と同時に、多国間主義アプローチを極めて重視しているとし、「多国間の協調と連携を通じて、国際社会が直面する課題の解決を図る、そうした『団結した世界』の実現を目指す」ことを表明した。

日米首脳会談でも言及した「自由で開かれたインド太平洋」の実現に向けては、「法の支配に基づく自由で開かれた秩序」こそが重要とし、海洋安全保障に関する法執行能力の構築支援や、港湾や電力網などの質の高いインフラ支援などを積極的に実施していくと述べた。

日本は、日EU経済連携協定(EPA)や日英EPA、地域的な包括的経済連携(RCEP)などで、一貫して自由貿易の旗振り役を務めているが、菅首相は自由で公正な経済圏の拡大も「自由で開かれたインド太平洋」の実現に向けた具体的な取り組みの一環と述べ、2021年は日本がCPTPP(環太平洋パートナーシップに関する先進的かつ包括的な協定、いわゆるTPP11)議長国として、CPTPPの着実な実施や拡大に向け、引き続き議論を主導するとともに、日本が共同議長国を務めるWTO電子商取引交渉などを通じて、「信頼性のある自由なデータ流通」の実現にリーダーシップを発揮していくと述べた。

(中溝丘)

(米国、日本、北朝鮮、中国)

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