価格統制策を相次ぎ導入もインフレ止まらず

(アルゼンチン)

ブエノスアイレス発

2021年04月12日

IMFは4月6日、「世界経済見通し」を発表し、アルゼンチンについて「インフレ率は依然として高く、インフレ期待を十分に抑制できていない。マクロ経済の安定化という点では、まだまだやらなければならないことがたくさんある」と評価した。

アルゼンチン政府が2021年度の予算編成の際に前提とした2021年の実質GDP成長率は5.5%、消費者物価指数上昇率(インフレ率)は29%だ。マルティン・グスマン経済相はこの見通しを変えていないが、中央銀行がエコノミストらを対象に行うアンケート調査のインフレ見通しは48.1%で、政府の予測値と大きな差がある。事実、1月のインフレ率は前月比3.3%増、2月は同3.6%増と高く、早くもグスマン経済相の見通しには黄色信号がともっている。政府のインフレ抑制政策はうまくいっていないようだ。

政府は輸入物価の上昇を抑制するため、中銀は通貨ペソの対ドルレートをペソ高に誘導しているが、ペソ安はじわじわと進んでおり、止まらないインフレに民間部門への圧力が高まっている。

物価抑制を目的とした価格統制は「プレシオス・クイダードス」(注1)が2014年に導入されたが、新型コロナウイルスのパンデミック発生を受け、2020年3月には新たに「プレシオス・マクシモス」(注2)が導入された。インターネットや携帯電話の料金も2020年8月から同年末まで凍結され、民間部門の不満が高まっていた。こうした中、2月11日の経済閣僚と民間部門との協議で、グスマン経済相は「インフレの原因はマクロ経済政策に起因するもので、民間部門に責任はない」と述べて民間部門を驚かせたが、その後も変わらず民間部門への圧力は高まっている。

2月17日には、大手消費財メーカー11社が意図的に商品の供給量を減らしているとの疑いで、工業生産・開発省が改善を促した。プレシオス・マクシモスの導入を受けて、企業が商品の供給量を減らさぬよう、設備能力を最大限に使用して生産することを義務付けていた。3月17日には、2019年の国内売上高が一定額を超える商業、製造業の企業は「経済活性化政策実施のための情報システム(通称SIPRE)」に商品の販売価格や販売数量、在庫数量などを毎月通報することが義務付けられた。約1,000社が対象になるとされており、政府の監視が強化されたことを受け、民間部門からは反発の声が上がった。3月31日にはプレシオス・マクシモスが5月15日まで延長された。

物価と為替は生活に直結する国民の関心事であり、選挙結果にも直結するため、時の政権の最重要課題だ。2021年は10月に中間選挙が行われるため、政府はインフレ抑制に躍起になっている。

政権内ではアルベルト・フェルナンデス大統領の求心力が低下し、急進的なクリスティーナ・フェルナンデス・デ・キルチネル副大統領の発言力が増しているとみられる。選挙に向けて、インフレ抑制のための民間部門への圧力は続きそうだ。

(注1)政府が商業施設や生産者などと協定を結び、食料品をはじめとした生活必需品の価格を統制する制度。

(注2)食料品をはじめとした生活必需品の一般消費者向け販売価格を2020年3月6日時点の店頭価格に据え置く制度。

(西澤裕介)

(アルゼンチン)

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