欧州委、新型コロナワクチン輸出の許可制度の強化策を発表

(EU)

ブリュッセル発

2021年03月25日

欧州委員会は3月24日、新型コロナウイルス対策ワクチンのEU域外への輸出に関する許可制度(2021年2月1日記事参照)の許可基準などに関する実施規則PDFファイル(外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)発表外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますした。同制度は、欧州委と事前購入合意を締結済みの製薬会社が製造するワクチンやその構成成分などを対象に、EUからのワクチンの輸出がEUへの供給の妨げにならないかを欧州委との協議の上で、輸出元となる加盟国当局が審査するものだが、今回、その判断における基準が「相互主義」と「比例性」になることを明確化させた。「相互主義」とは、主にワクチン生産国を対象に、法律だけでなく製薬会社との契約上の取り決めなどによって、同国で製造されたワクチンのEUへの輸出が制限されているかを判断する。また、「比例性」は、EUとの比較において、ワクチンの非生産国を含めた輸出先の疫学的状況、ワクチンの接種率、ワクチンの供給状況を考慮する、というものだ。さらに、輸出許可制度の対象国に、EUの近隣諸国を中心にスイスやイスラエルなど、これまで対象外だった17カ国が追加された。

アストラゼネカと英国への適用が焦点に

今回の発表に関して、欧州委のウルズラ・フォン・デア・ライエン委員長は既に3月17日の会見で、輸出制限の対象として英国と同国の製薬会社アストラゼネカを念頭に置いていることを示唆していた(2021年3月22日記事参照)。欧州委のバルディス・ドムブロフスキス上級副委員長(通商担当)は3月24日の会見で、当初、アストラゼネカとの契約で予定されていた第1四半期の供給量の3分の1以下となる3,000万回分の供給すら現状ではほど遠いとし、同社の契約の履行状況への不満をあらためて表明した。さらに英国に対しても、今回の発表は特定の国に向けられたものではないとしつつも、EUから英国へ約1,090万回分のワクチンが輸出され、最大の輸出先になっているにもかかわらず、英国からEUへの輸出は全く行われていないことを明らかにした。ただし、EUから英国への輸出の大半は、アストラゼネカ製ではなく、米国ファイザーとドイツのビオンテックのワクチンだ。ファイザー・ビオンテックによる契約の履行状況は順調とみられており、輸出許可制度に基づき今後、同社のワクチン輸出の不許可があり得るのかについて、現地メディアから注目が集まったが、ドムブロフスキス上級副委員長は明言を避けた。

(吉沼啓介)

(EU)

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