英政府、信頼回復へ監査体制や企業統治について見直しを提言

(英国)

ロンドン発

2021年03月25日

英国ビジネス・エネルギー・産業戦略省(BEIS)は3月18日、英国の主要企業に対する会計監査体制や企業統治(コーポレートガバナンス)の方法について大幅な見直しを行う考えを公表した。主要企業の寡占状態にある会計監査市場の改革や相次ぐ上場企業の経営破綻などにより、投資家からの信頼が揺らぎつつある英国企業の財務に対する透明性や健全性を高めることが目的とされる。改革に当たって、投資家や株主などの市場関係者、企業や業界団体などの産業界などからの意見公募外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますを開始している(期限は2021年7月8日まで)。

監査に関しては、「ビッグ4(注1)」と呼ばれる大手会計事務所4社を、大半の上場企業が利用している状況について是正する。ロンドン証券取引所(LSE)の「FTSE 350(注2)」構成企業(以下、構成企業)のうち、同4社を利用している企業は97%に上る。また、政府は、2020年に検査が行われた構成企業の監査のうち、約3分の1が改善の必要があったとしている。寡占状態の是正策として、構成企業に対し、同4社以外の会計事務所への業務振り分けを提案。なお、同施策で改善がみられなかった場合は、同4社のシェア上限を設置する可能性も示した。

また、財務の健全性強化のため、企業会計の監視組織である財務報告評議会(FRC)に代わり、監査・財務報告・企業統治監督機構(ARGA)を新たに設置し、より大きな法的権限を付与する。具体的には、上場企業だけでなく大規模な非上場企業を監視する権限の付与や、利益相反リスク低減のため会計事務所に対し監査業務と非監査業務を分離して運営させることができるようにする。さらに、企業に深刻な問題が発生した場合は、裁判所を通さずに、同社に対し財務諸表の再作成を命じるなどの対応を可能にする。

加えて、財務諸表などの取り扱いに際し、大手企業の経営陣が負う責任についても強化する。重大な誤りや隠蔽(いんぺい)などの不正が発覚した場合は、取締役に対し罰金や職務停止を科すことができることなどを盛り込んだ。

クワシ・クワルテングBEIS相はこれらの見直しについて、新型コロナウイルス感染拡大からの英国経済の復興には欠かせない施策だとしている。企業財務の透明性強化や企業統治への信頼を取り戻すことで、投資家に対し確実性を与え、市場における英国の地位を確固たるものとする構えだ。なお、会計事務所や産業界も、同施策について、前向きな一歩として歓迎の意を表している(BBC3月18日)。

(注1)デロイト、プライスウォーターハウスクーパース(PwC)、アーンスト・アンド・ヤング(EY)、KPMG

(注2)ロンドン証券取引所(LSE)における株式指標。LSEに上場する企業のうち、時価総額上位350位の企業の銘柄で構成されている。

(尾崎翔太)

(英国)

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