石油系燃料の価格上昇による一部税率を引き下げ、バイオメタンへの活路も

(ブラジル)

サンパウロ発

2021年03月15日

ブラジル連邦政府は3月1日、政令第10.638号を公布し、即日施行した。政令は、ディーゼルや家庭用の液化石油ガス(LPG)に係る連邦税のうち、社会保険融資負担金(COFINS)と社会統合基金・公務員厚生年金(PIS/PASEP)の税率を0%にするもの。期限は、ディーゼルは4月まで、LPGについては特段定められていない。措置の目的は、昨今のエネルギーの国際価格高騰や、国営石油会社ペトロブラスによるディーゼルやLPGの製油所出荷価格の値上げで、輸送会社や国民が被る負担を軽減するため。急速に進む通貨レアル安も措置実行の背景にあるとみられる。1月以降、ディーゼルの油所出荷価格は5回、LPGは3回値上げが実施されている。

ブラジル国内では近年、石油代替燃料への変換を推進する動きが加速している。2月25日付のブラジルバイオガス協会(Abiogás)の公式サイトによると、アレサンドロ・ガルデマン会長は「全国で利用されるディーゼルの7割が今後、有機性の廃棄物から発生するバイオガスを精製したバイオメタンに置き換わる可能性がある」と述べた。バイオメタンのメリットとして、「二酸化炭素排出量を減らす」ことはもちろん、輸入に頼らずに大部分が国内で調達できる廃棄物であることから「ディーゼルほど為替の影響を受け難く、価格が安定的なことだ」とも述べている。

連邦議会では、天然ガスの利用促進のため、天然ガス用のパイプライン設置を奨励する法案が2020年9月1日に下院議会で可決された(注1、2020年9月7日記事参照)。2月18日付の現地紙「エスタード」によると、国内でブラジル石油・天然ガス・バイオ燃料庁(ANP)が定める基準を満たすバイオメタン生産所を運営するMDCグループ(注2)のマヌエラ・カヤト最高経営責任者(CEO)は「こういった動きをきっかけとして、ガス市場に新たな企業が参入し、競争が促進されることによって、コスト低減と需要拡大につながることを期待している」と述べている。

連邦政府は一方で、大統領暫定措置令第1.034号を3月1日に公布し(注2)、法人利益負担金(CSLL)の税率を引き上げた。政令第10.638号による税収減を補うことが目的だ。CSLLは、ブラジル国内に住所を有する全ての法人と法人格扱いを受ける者が負担義務を負うもの。標準額は法人税の税引き前利益を基に計算されるが、保険会社や金融機関は税率が決まっている。本措置の対象は、保険会社や金融機関に限定され、銀行の負担割合は従来の20%から25%へ、保険会社や他の金融機関等は15%から20%に上昇する。新たな税率は7月1日から12月31日まで適用される。

これを受け、銀行からは懸念の声が上がっている。3月2日付の現地紙「エスタード」によると、ブラジル銀行連盟(FEBRABAN)のイザック・シドネイ会長は同紙のインタビューで、政府の対応に一定の理解を示しながらも、「金融サービスコストが上昇する」懸念を示した。

(注1)その後の上院議会審議で、バイオメタンも天然ガス用のパイプラインで移送する項目が追加されたことを踏まえ、下院で再度の審議を行っている。法案番号はPL6407/2013)。

(注2)ブラジル国内では、ANPの基準を満たすバイオメタン精算所は3カ所あり、そのうち2カ所をMDCグループが運営している。

(注3)大統領暫定措置令第1.034号第2項は即日施行、それ以外の項目は公布4カ月後の1日目(7月1日)に施行。

(エルナニ・オダ)

(ブラジル)

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