ルーラ元大統領の汚職有罪判決取り消し、次期大統領選への関心集まる

(ブラジル)

サンパウロ発

2021年03月17日

ブラジル連邦最高裁判所(STF)は3月8日、公式サイトにおいて、エジソン・ファキン判事が、ルイス・イナシオ・ルーラ・ダ・シルバ元大統領の汚職事件に関する一審と二審の有罪判決取り消しを決定したことを明らかにした。再審理のため、取り消し対象となったのは4案件。そのうち2案件が二審以上に進んでいた。取り消しの理由は、ルーラ元大統領が関与した汚職事件は、国営石油会社ペトロブラスのみならず複数の事業者が絡むものであるため、裁判は、一審の行われた南東部クリチバ市(パラナ州)ではなく、首都ブラジリアで行うことが適切と判断したため。ついては、ブラジリアの連邦裁判所で再審理するため、同案件を移送することを併せて決定した。

これを踏まえ、ブラジル国内では現在、2022年の大統領選挙にルーラ元大統領が立候補できる可能性についての議論が高まっている。ルーラ元大統領は、汚職撲滅を目的に2010年に成立したクリーン・レコード法(注1)で、「二審で有罪判決を受けた者は被選挙権を失う」と規定されていることから、2018年10月の大統領選に立候補できなかった。

一審となる第13連邦地裁(南東部クリチバ市)では2017年7月に有罪、禁錮9年6カ月の判決が下っており、二審となる第4管区連邦裁判所(南東部ポルトアレグレ市)では2018年1月に有罪、禁錮12年1カ月の判決が下っていた(注2)。

連邦検察庁は3月12日の時点でファキン判事の決定に対し正式に抗告しているため、現時点ではファキン判事の決定は確定していない。しかし、ブラジルでは裁判の再審理の結論が出るまで長い時間がかかるケースがあり、ルーラ元大統領はクリーン・レコード法の制限を受けないまま、次期大統領選に立候補できる可能性がある。

これらの動きを踏まえ、3月11日放送のCNN Brasilでは、2022年の大統領選挙を見据えた特集番組が放映された。番組には、2021年2月に実施されたブラジル連邦議会の議長選挙(2021年2月5日記事参照)で、ジャイール・ボルソナーロ政権と調和を図りつつある中道政党(注3)所属のリカルド・バーロス下院議員〔進歩党(PP)所属〕が招かれ、ニュースキャスター兼ジャーナリストのモナリザ・ペッローネ氏と対談した。その中で両者は、ルーラ元大統領の失脚以降、勢力を弱めていた左派の労働者党(PT)が、今後勢力を拡大させる可能性がある点について言及した。その上でバーロス下院議員は、中道政党は歴史的にさまざまな政権と連立を組んできたものの、「現時点ではボルソナーロ政権との関係性を維持している」と発言。加えて両者は、2022年選挙では新型コロナウイルス対策に加えて、「汚職といったテーマも選挙戦のキーワードとなる可能性」についても言及した。

3月9日放送のCNN Brasilでは、労働者党(PT)のグレイシ・ホフマン党首が出演し「2022年についてはまだ議論していない。これから関係者と十分な議論や意思決定が必要になる」と述べ、先ずは「2021年に向けてなすべきことへ対応しつつ、良いタイミングに議論したい」としながらも、ルーラ元大統領は「選挙戦を争っていくのに望ましい人物であることには疑いない」とコメントした。

(注1)ポルトガル語では「フィッシャ・リンパ法」と呼ばれる。

(注2)ブラジルでは、「トリプレックス・ド・グアルジャ」事件と呼ばれている。サンパウロ州内の美しい海岸があることで知られるグアルジャ市にある高級3層住宅をルーラ元大統領が受け取ったとする汚職疑惑があることから、それを意味するポルトガル語で名付けられた。

(注3)ポルトガル語では、「セントロン(Centrão)」と呼ばれる。

(古木勇生)

(ブラジル)

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