欧州製薬業界、EUのワクチン輸出許可制度を懸念

(EU)

ブリュッセル発

2021年03月25日

欧州製薬団体連合会(EFPIA)は3月23日、欧州でワクチンを生産する12企業が参加する団体「ワクチン・ヨーロッパ」とともに声明外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますを発表し、欧州委員会のワクチン輸出許可制度(2021年2月1日記事参照)への懸念を示した。EFPIAは、同制度が発表された1月末にも同様の声明外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますを発表していたが、3月25、26日に開催される欧州理事会(EU首脳会議)を前に、ワクチンだけでなく、その構成成分や必要な消耗品も含めて、さらなる規制強化を警戒し、あらためて声明を発表した。

EFPIAは、新型コロナウイルス感染症のワクチンの中には200以上の成分から構成されるものもあり、世界各地からの原材料供給によって支えられていると説明。欧州委の規制に対抗して、他の国・地域が報復的な措置を取った場合、欧州市民のためのワクチンの製造・供給も大きな危機にさらされるとした。そして、製薬企業は、ワクチンの供給状況に対する欧州委の不満は理解しつつも、できるだけ多くの市民に、短期間でワクチンを接種するという目標を共有し、増産に向けて、あらゆる努力をしていると反論。欧州委の「ワクチン・ナショナリズムと捉えられかねない」輸出規制は、これまでのワクチン開発における官民の垣根を越えた協力と進歩を危うくすると批判し、「グローバルな貿易を提唱し、多国間貿易システムを擁護するEUの地位を損ない、ワクチン生産・供給を阻害する恐れのある反動的な提案」は避けるべきだとした。

加盟国の間でも意見が割れる輸出許可制度への評価

欧州委は、特にEU域内への供給が不足している英国のアストラゼネカに対して圧力を強める方針を示していたが(2021年3月22日記事参照)、3月24日付のイタリアの日刊紙「ラ・スタンパ」が、イタリアのアストラゼネカの工場で、欧州委に報告されていなかった2,900万回分のワクチンが見つかった、と報道した。これは欧州委の発表に基づく、同社の2021年第1四半期(1~3月)のEUへの供給予定量3,000万回分とほぼ同等の数量だ。同紙によると、欧州委はイタリア当局に対して、どこへ出荷する予定だったかなどの調査を促したとしている。同社への不信がさらに高まる中、欧州委は3月24日、現行の輸出許可制度の強化を発表した。同制度をめぐっては、3月24日付のフランスの「ル・フィガロ」紙によると、ドイツ、フランス、イタリアは賛同しているが、ベルギーやオランダは消極的、アイルランドは反対するなど、加盟国間で意見が割れており、今後の欧州理事会での協議や製薬企業の対応が注目される。

(滝澤祥子)

(EU)

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