歴代米国通商代表8人がバイデン氏の通商政策の見通しを議論

(米国)

ニューヨーク発

2021年01月06日

米国シンクタンクの戦略国際問題研究所(CSIS)は2020年12月17日、今後の通商政策に関して、過去に米国通商代表(USTR)を務めた有識者を招聘(しょうへい)してウェビナー外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますを開催した。有識者は、対中政策や米国の環太平洋パートナーシップ(TPP)復帰などの政策見通しについて議論したほか、次期通商代表に指名されたキャサリン・タイ氏への助言を行った。

ウェビナーには8人の元通商代表(注1)が参加し、CSISのウィリアム・レインシュ上席研究員の進行の下、次期大統領就任が確実視されるジョー・バイデン前副大統領の通商政策の見通しが示された。マイケル・フロマン氏は、バイデン政権も国内の経済成長に寄与する政策を望む点ではトランプ政権と変わらない、と指摘した。ロナルド・カーク氏は、バイデン政権が新型コロナウイルス対応や国内経済を優先すると予想したのに対し、スーザン・シュワブ氏やロブ・ポートマン氏は、米国・英国間の2国間自由貿易協定(FTA)協議やトランプ大統領が課した追加関税などの扱いに関して、政権発足後まもなく判断を迫られると述べた。

識者で見解が一致したのは、中国が通商の最優先課題になる点だ。シャリーン・バシェフスキー氏らは、習近平国家主席が計画経済を継続する、と述べ、同盟国と連携して中国に対応すべきと主張した。ポートマン氏は、貿易救済措置(アンチダンピング税や相殺関税)の強化や、人工知能(AI)などの国内産業の育成が重要、と述べた。カーラ・ヒルズ氏は、バイデン政権が追加関税を即座には撤回せずに、中国に構造改革を迫ると予想した(注2)。

環太平洋パートナーシップに関する包括的および先進的な協定(CPTPP、いわゆるTPP11)について、ミッキー・カンター氏は、アジア地域で中国に対抗する上で米国の早期復帰が必要と述べた。バシェフスキー氏は、2020年11月に署名された東アジア地域包括的経済連携(RCEP)を米国への警鐘と捉え、アジア地域への関与拡大の検討を促した。また、ポートマン氏やウィリアム・ブロック氏は、2021年7月1日で期限が切れる大統領貿易促進権限(TPA)法(2018年7月4日記事参照)について、今後の通商協議のために更新が必要と強調した。

バイデン氏が次期通商代表に指名したタイ氏(2020年12月14日記事参照)については、現上院議員のポートマン氏をはじめ、歓迎の声が集まった。シュワブ氏は、連邦議会と通商代表部の両方での職務経験があるタイ氏は適任としつつ、自らの戦略が政権の方向性と合致することを他の政権幹部に説明することが重要と述べた。バシェフスキー氏は、タイ氏が外国政府よりも議会との交渉に労力が割かれるとして、国内調整の必要性を指摘した。ヒルズ氏は、産業界や労働組合と共に作業部会を立ち上げ、自由貿易への支持を固めるよう提言した。

(注1)参加した元通商代表は以下のとおり(かっこ内は在任期間)。

  • ウィリアム・ブロック氏(1981~1985年)
  • カーラ・ヒルズ氏(1989~1993年)
  • ミッキー・カンター氏(1993~1996年)
  • シャリーン・バシェフスキー氏(1996~2001年)
  • ロブ・ポートマン氏(2005~2006年)※現上院議員(共和党、オハイオ州)
  • スーザン・シュワブ氏(2006~2009年)
  • ロナルド・カーク氏(2009~2013年)
  • マイケル・フロマン氏(2013~2017年)

(注2)バイデン氏は、対中追加関税を即時には撤回しない方針や、国内で労働者や教育のための大規模な投資が行われるまで新規の貿易協定を結ばない意向を表明している(「ニューヨーク・タイムズ」紙電子版2020年12月2日)。

(藪恭兵)

(米国)

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