欧州委、EU農業の最新動向や今後10年の展望を発表

(EU)

ブリュッセル発

2020年12月23日

欧州委員会は12月16日、EU農業の市場データ、最新動向や中期的な展望をまとめた年次報告書PDFファイル(外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)を刊行した。これは、毎年開催されている「EU農業アウトルック会議」に合わせて公表されるもので、2020年版は2030年までの10年間についてまとめている。

2020年度報告書では、産品別の生産・消費動向に加え、「新型コロナウイルス危機」が農業部門に与えた影響についても触れている。各国政府による感染拡大抑止のための規制により、物流が阻害され、収穫作業に関わる季節労働者などの確保が困難になり、急激な需要の変化といった影響がもたらされた。一方で、地元で生産された産品や、農場直送品など中間業者が少ない流通ルートで供給される産品、オンラインでの食品販売に対する消費者の関心の高まりがさらに顕著になり、生産地や環境対応のほか、健康への影響・効果も、消費者が製品を選ぶ際の主な決め手になっているとした。また、新型コロナ危機は、農業市場に長期的な影響を及ぼすとみられ、その規模は、今後の各加盟国の経済の回復状況や、各農産品の市場で異なるだろうとした。

さらなる環境対策の強化が必要と指摘

また、欧州委員会が最優先課題の1つとする、気候変動問題に関連して、農業部門からの温暖化効果ガスの排出量は1990~2018年の間に21%削減されたものの、顕著な改善がみられた1990年代初頭と比べ、近年は大きな変化がないと指摘。現行の政策枠組みのままでは、2030年まで排出量は変わらないとの予測を示した。そこで、環境に配慮した農法や技術の活用、休閑地の減少など、農地管理をさらに進めるべきだとした。なお、欧州委は、EUの次期共通農業政策(CAP)(2020年10月29日記事参照)、「欧州グリーン・ディール」やその一環として発表された、農業部門からの排出で最も大きな割合を占めるメタンに関する「メタン排出削減戦略」(2020年10月15日記事参照)などにおいても、農業部門における環境対策の強化を打ち出している。

さらに同報告書では、昆虫の養殖に着目している。食品廃棄物を昆虫の飼料とすることによって、食品ロスを削減し、循環経済に貢献するとしている。ただし、家畜・養殖魚の飼料として、穀物に代わって昆虫の幼虫が用いられることが増えれば、飼料コストの削減により、畜産業を後押しすることになり、畜産部門の農地削減などにはつながらず、わずかではあるが温暖化効果ガスの排出量の増加につながるとの懸念も示している。また、昆虫を飼料とすることの安全性や持続可能性についても、今後、検討が必要とした。

写真 畜産部門でも環境対策強化が求められている(ジェトロ撮影)

畜産部門でも環境対策強化が求められている(ジェトロ撮影)

(滝澤祥子)

(EU)

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