米インディアナ州パデュー大、サイバーセキュリティー人材ニーズに見習い制度で応える

(米国)

シカゴ発

2020年10月01日

米国インディアナ州のパデュー大学(注1)は9月16日、州内の複数の大学と連携し、サイバーセキュリティー分野に特化した見習い制度を導入すると発表した。同制度の責任者ギーニー・アンバーカー教授はジェトロの取材に対し、「学士のみならず、所定の授業履修者や修士・博士課程の学生全てを対象とした全米唯一の見習い制度だ」と述べた。さらに、制度創設の背景として「『新型コロナ禍』による業界からの要請と連邦政府・州政府からの後押しがある」とコメントした。

米国では、「コロナ禍」による在宅勤務の広がりによって業務のデジタル化が加速している。生産現場でも人同士の距離の確保が必要となっており、モノのインターネット(IoT)導入の機運が高まっている。同教授によると、「サイバーセキュリティー分野の人材が幅広い産業で求められている」という。

企業ニーズに基づく米国の見習い制度

見習い制度は、日本でよくみられる「長期有償インターンシップ制度」と「民間企業による奨学金制度」を組み合わせたものだ(注2)。パデュー大学の制度では、学生はサイバーセキュリティー分野のオンラインコースを履修しつつ、受け入れ先企業で実務経験を積む。企業は将来のサイバーセキュリティー人材の採用につなげることができる。通常、見習い制度の維持・管理費を企業が「登録料」として負担することが多いが、パデュー大学の制度の維持・運用に係る費用は、連邦労働省の「NICE Cybersecurity Workforce Framework」の補助金で賄われるという。これにより、見習い制度に加入した企業が支払うべき費用は、実働に対する給与(通常時給の半額程度)と当該学生の学費のみで済むことになる。

制度創設の背景には州政府の手厚いサポートも

インディアナ州政府は、産業の高度化を政策に掲げ、特に、第5世代移動通信システム(5G)環境の整備を進めている。また、全米知事会のサイバーセキュリティー強化に関する発議に基づき、州独自の専門委員会「インディアナ州サイバーセキュリティー執行委員会(INDIANA EXECUTIVE COUNCIL ON CYBERSECURITY:IECC)」を立ち上げた。州内の産業に対し、同委員会は横断的なリスク管理と州政府への必要な助言をする。人材育成は州政府にとっても喫緊の課題であり、本制度発足に当たり、職業訓練補助金の活用などの支援も実施している。

前出のアンバーカー教授は「製造業の中心地であるインディアナ州でのサイバーセキュリティー人材の育成が重要だ」と強調する。特に「高度な領域の先端的知識の習得のみならず、製造業の現場を知ることと、チームでの作業を前提にコミュニケーション能力や論理的思考力の向上に注力したい」と意気込みを語った。この目的達成に向け、「製造業企業に学部の運営委員の席を設けるなどして、現場の声が教育現場に反映される仕組みづくりを意識している」とした。

また、同教授は「見習い制度はリモートでの参加が可能で、全米の日系企業の参加も歓迎したい」と述べた。サイバーセキュリティー人材が求められる今、見習い制度の活用が人材確保のための重要な選択肢になりそうだ。

(注1)米国中西部でミシガン大学と並んで著名なエンジニアリング学部を持つ。全米大学ランキング(2020年公表)では、エンジニアリング学部は9位。

(注2)一般的なケースでは、学生は週2、3日間をインターン生として勤務し、残りを学業に充てる。企業は規定の給与を学生に支払いながら、原則として授業料を全額負担する。学生は卒業後一定の年数(3~5年)、インターン先企業に勤めることを約束する。米国では企業が大学と協議し、自社ニーズに合わせた独自カリキュラムを作成することが一般的となっている。

(橋本翼)

(米国)

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