EU会計監査院、中国の対EU投資におけるリスクとEUの課題指摘

(EU、中国)

ブリュッセル発

2020年09月11日

EUの監査機関である欧州会計監査院(ECA)は9月10日、EUの主要機関としては初となるEUの対中国関係を包括的に分析した報告書「中国の国家主導投資戦略に対するEUの対応PDFファイル(外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)」を発表した。この報告書は、EU域内での中国による投資のリスクや課題を分析することで、中国の投資戦略の現状に関しするEUの政策立案者の理解を深めることを目的としている。

報告書によると、EU域内の対内直接投資残高に占める中国の割合は、低水準ではあるものの、増加傾向にある。また、2000年以降の中国による投資の半数以上が国有企業によって行われており、国有企業による投資分野の内訳をみると、交通・インフラ(29.1%)、情報通信技術(12.4%)、エネルギー(10.1%)など、戦略上重要な分野で特に顕著だ。こうした分野への投資は、中国が推進する「一帯一路」政策などの一環であり、背景には中国の地政学的な影響力を拡大させる狙いがあると分析する。また、EU市場は外国投資に対して広く開かれているのに対し、中国は多くの分野で外国投資を制限していることや、EUが域内の国家補助を規制しているのに対し、中国では国有企業を通してEU向け投資が積極的に行われていることから、欧州企業が不利益を被っていると指摘する。

中国の投資戦略リスクに対し、EUの結束の必要性強調

報告書は、中国の投資戦略に起因するリスクとして、戦略的な資産への投資による安全保障、加盟国の中国との個別の覚書締結によるEUの結束低下、中国への強制的な技術移転によるEUの長期的な競争力低下、中国への供給依存などを挙げている。また、中国の国家戦略の一環として行われる投資に関するより完全なデータや統計が乏しく、包括的な分析が実施できない点を課題として指摘。さらに、EUには対中政策に関する行動計画があるものの、明確な目標や実施主体・実施期限などが明瞭になっておらず、その実施状況の評価や監督が不十分だとしている。

各加盟国が独自の国益に基づいて中国との2国関係を築いている事例が多く、EU機関と加盟国の間で十分な調整がなされていない点も指摘する。中国が「一帯一路」政策に関して覚書を締結した加盟国は15カ国(注)にも及ぶが、EU法上の義務にもかかわらず、欧州委への情報提供がされていないとしている。中国の投資戦略に効果的に対応するためには、加盟国ごとではなく、EUが一体となって政策を実施する必要があるとしている。

(注)イタリア、ギリシャ、ルクセンブルク、チェコ、ハンガリー、ポーランド、ルーマニア、スロバキア、ラトビア、クロアチア、エストニア、リトアニア、スロベニア、ブルガリア、マルタ

(吉沼啓介)

(EU、中国)

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